greendice [shortland VIII-ラクリマの紹介] greendice 今だから greendice
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■ 今だから書けること ■
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◇キャラクターに負わせたもの 〜1.治療の専門家〜

 これはキャンペーン中も言ってたかもしれない。別に隠すべきことでもなかったから。

 負わせたもの。すなわち自ら課した「約束事」です。
 ホムンクルスであるとかそういった運命的なもの、あるいは背景ではなくて。

 プレイしていくにあたって、今回はひたすら「治療行為」に特化した僧侶にする、という自己制限を設けていました。
 いやほら、僧侶っていうと「回復マシーン」になりがちではないですか(なってました。ひどいときには感謝もナシ)。それを脱するのも一つの醍醐味なのでしょうが、今回はあえてそちらに専念しよう、と。言い換えれば、そういう振る舞いをせずにはおれないような人格にしようということです。
 ……考えてみるとマスターの思惑と適合していたような気がして、そこはつい腹が立ちますが、まあそんなわけです。だから自分の力の及ぶ限りは、治して治して治しまくってました。仮令(たとえ)相手がこちらを回復マシーンとしか見ていないようなときでも。

 キャンペーンの最後の方になって、ラクリマは外科的治療法にたいへん興味を抱くようになりました(これは恐らくダイジェストにも文庫にも書かれないでしょうが)。
 もともと飼ってる鶏を絞めることのできる人種ですし(だって修道院でやらされるから慣れちゃうんだもん)、ばっくり口をあけた酷い怪我とかそういう惨状も冷静に見られる者ではありました。死体なんかもしょっちゅう見てただろうし。そんな場面で取り乱したら治療できない、相手を救えないからそれは当然必要な態度なのですが、だれもが平気なわけでもないでしょう。要するに外科医的な素養があったってことです。
 今後は呪文による治療よりもむしろ外科的治療、ないし風土病に対抗するための薬剤開発などに傾倒していくでしょう(キャンペーン終了したけど)。ちなみに「外科」という役割を担わせるのにはそれなりの理由があります。それはまた別の機会に。

◇力の在りようについて

 舞台となったフィルシムは「弱肉強食」の国です。ラクリマもそこで育った以上はそのイデオロギーをガイドラインとして身に備えています。他者の力を認めて「力があるっていいですね」などと言ってみたり、自分の無力さを痛感して落ち込んだりするのはその所為でもあります。
 「強い」「力がある」と言うとき、思い浮かべられる筆頭は「武力」です。その次に財力、それから地位(社会的立場)、人脈、言論、魅力などでしょうか。ショートランド世界においては「魔法」が存在するため、これも選択肢に入ります。

 ところで天の邪鬼たるプレイヤーとしては、そんな当たり前のものを「力」として追求するのは楽しくありません。そもそもいま挙げたもののうち、私が個人的に「力」と認めるのは(物理的なforceを別として)人脈や言論などです。武力(魔法も含め)を「強さ」のバロメータとして認めるなどとゆーのは、本来主義に反することです(笑)。

 では何を「力」として求めるか?
 ラクリマは僧侶なので「癒しの力」とゆー回答が出てきそうですが、これはこれで当たり前すぎてつまらない。つまらないといえば、レベルが上がるごとに呪文の数が増えるのはわかりきったことだから追求する面白味がない。しかも癒しの力って全部「神からの借り物」じゃないですか。そんなの「自分の力」とするか?(個人的にしたくない) それに「目に見える力」なんてヤダ。どうせ周りは「強いんだから当然の権利」みたいに開き直る人ばかりなんだから、逆に普通はそれを『力がある』こととは気づかないほうが面白い、等など。
 というわけで「癒しの力」はボツ。その他にもいくつかあったのですが(「人を和ませる力」…そんな難しいロールは私にできない、「言論の力」…未分化情報を未分化のまま消化する人種なので不可、等)、全部ボツ。

 で、天の邪鬼がたどり着いたのは、「他者の力を代用(あるいは借用)する」というかたちの力でした。
 つまり、自分自身にはとりたてて「力」はないんだけど(これ重要)、望まなくても周囲が常に助けてくれる、あるいは意図せずに周囲の力を代用してしまうような、見た目は「弱い」が真の意味では「強い」人種(無意識なれば最強)というコンセプトです。
 たとえば、決して「守って欲しい」などとは言わないし思ってもいないのだが、周りがついつい手を出して守っちゃう。困っているとつい手を出して助けてやりたくなる。だから結果として、自分の力をはるかに超えた成果を上げることになる。

 で、始めたはいいが、難しーんだわ、これが。何しろ「無意識」で代用しなければならないから、それを示唆するような言動は慎まなければならない(意識してやったらただの「嫌な女」になりそう)。つまり周囲に対して手の打ちようがない(笑)。
 早々に「まぁ、そうなったらいいなー」くらいに目標達成レベルを落としました(笑)。できる範囲で追求するけど、どーせこんな難しい条件は実現できないだろうと思って。
 まぁ、先ほど書いたように「手の打ちようがない」。だから「細かい助力はありがたく受けて、感謝をきちんと表明するなり自分なりのお返しを考えようとする(=助力してよかったと満足してもらえるように)」とか、「自分から他人に縋ることはしない(=自分なりに努力し「甘えないで自分でやれ」という展開を禁じる)」とか、「小さな問題については素直に助力を請う(=謙虚な者の方が傲慢な奴より手助けしたくなる)」とかゆー態度を貫くようにだけ気をつけました。それで代用が可能になるかってーと怪しかったけど。

 成果? 成果ですか、成果は結局のところ、まずまずだった……かな。
 私(プレイヤー)が事あるごとに「こいつ(ラクリマ)は本当は一番強くて、守る必要のない存在なんだ」と説いたにもかかわらず態度を改めないキャラが数名いましたし、「別に守って欲しくないのに相手が守ろうとする」というのは現実に起こってしまって洒落にならないこともありました(特に後半)。
 でも困っているひとがいたら助けたくなるのは、普通の人情ってものだし。仲間を守ろうとするのも当たり前のことだし。「相手がラクリマだからつい…」という限定がどれだけついていたかは疑わしいです。

 一般に「力がある」といわれるのは「他者に対して何らかの『強制力』を働かせることができる」ときです。ですが、上記の「代用」は強制力ではありません。彼女を守るか助けるかといった選択は、周囲の自由意志に委ねられているからです(笑)。効果を見れば「力」が働いているようにしか見えないんですが、実行しているのは周囲の人間だから彼女自身の力とは思われない。ここがミソ(笑)。
 武力のような、単純で直接的な力ばかりが力の在りようではないということ。これを自分で納得したくて、今回、妙な目標を設定したのかもしれません。最終的にこの形式の力が、果たしてフィルシムにおいて力と認められるかどうかは……甚だ疑問ではありますが。

(2004年7月9日)