tealtriangle『夢見石』の冒険:#03 <<Previous

tealdice [shortland 『夢見石』第3回] tealdice 代替プロローグ「サラの夢」 tealdice

一体…今が、『夢』なのか、現実なのか、判らなくなり始めている。
そう感じ始めたのは、何時の頃からだったか…
確かセフィロムに『夢見石』を使って治療行為を行った後からだと思うのだが…
幾つもの、本当に幾つもの『夢』を『見て』…いや、『過ごして』が適当か…きているので、どれが本当の現実なのか…
もしかしたら本当の現実などなく、全てが『夢』なのではないのだろうかと、さえ、思えてしまう。
私と、私を現実だと思っている世界とを結んでいる絆は、ひどく細く壊れやすいモノ。
そんなモノに縋ってはならないはずなのだけれど、
今は頼るしかない…
リッキィ。
貴方に『夢見石』を預けてさえいれば、私が目を覚ましたときに、『夢』と現実の区別を付けることが出来る。
『夢』の中の私は、常に胸に輝く『夢見石』を抱いていたから。
しかし、それは彼女を危険にさらすことにもなる…

「追いかけっこは、もう終わり。おとなしくその『石』を渡しなさい。」
貴方達の目の前に突然現れたのは、きつい感じの40代前半の細身の美女。
貴方が、『夢見石』の力を使って治したセフィロム・ハッシマー、その人だった。
彼女は、蒼い上質のローブに身を包み、手にはルーン文字の描かれたワンドを手にしている。
胸には、貴方がこの世界で見てきた魔晶石の中でもっとも大きな魔晶石が掛かっている。
この数日、彼女の呼び出したり、作り出したりしたモノであろう、ゾンビや怪物の襲撃を受けて、貴方達は疲弊していた。
「おとなしく渡しても許して上げないけれどもね。」
そう言うと、彼女は、貴方に…正確には貴方の持っている『夢見石』に向けて『火球』の呪文を放った。
ワンドの先から繰り出された『火球』は、一直線に貴方めがけて飛んで来て、貴方と貴方のまわりにいる仲間を巻き込んで爆発した。
服と生肉が焼ける臭い、鉄の熱さ、髪を焦がす爆風、そして痛み…
それらのリアルな感覚が、貴方の身体に染みついた…

初めての仲間と9日間の道程を旅していた。
そして不意に、目の前が開けた。
目の前、深い森と険しい丘陵地帯の境目に目的地、『旅人の村』セロ村はあった。
傷ついていた君達は、そのままセロ村の門をくぐった。
村の中には、『森の女神』亭という宿屋があり、中に入ると、依頼主マクレガーが、『夢見石』を見せびらかしながら、酒を飲んでいた。

迷宮の中を歩いている貴方達。
ある部屋の前に着いた。
この部屋の中には、フロストサラマンダーがいる。
貴方達が得た地図は物凄く正確であった。
今まで一カ所たりとも間違いのない優れモノであった。
貴方は、仲間のために『耐冷』の呪文を掛けた。
貴方を中心に穏やかな風が流れる…
仲間の身を守ること、
それは大切なことであり、
その大切なことが出来る自分がなぜか嬉しくもあった。

『聖戦』
誰が、最初にそう唱えたのか知らないが、
その戦いは、何時しかそう呼ばれるようになった。
その内容は、おおよそ『聖戦』と言う名に似つかわしくないようなモノだったが…
人間と獣人の戦いは、女神リムリスが獣人の為に力を使わなくなった時点で趨勢は決していた。
後はどれだけの領土を奪えるか、という、人間のエゴでしかなかった…
「あっちに一匹逃げたぞ!」
それは若い男の声。
「ゼブラだ。当たりだぞ!」
これも男の声。
逃げる一頭のゼブラ。その馬体にはすでに多くの矢が刺さっている。
そのゼブラは、罠にはまったらしく、
逃げ込んだ先には4人の鎧を着込んだ男達が思い思いの武器を手に待ちかまえていた。
残る一方、後ろに追い込んできた男が詰める。
死を悟ったゼブラは最期の反撃を試みるが、敢え無く最初の男の一撃でとどめをさされてしまった。
その死体は、一人のか弱い少女の姿へと変わった。
「死んじまったら、意味ねえな。」
下卑な笑いを浮かべた男は、もう動かなくなった裸の少女に近づき、
額から無造作に七色に輝く宝石を取り出した。
美しい…生きていたらそう呼ばれたであろう、少女の顔は、ナイフで傷つき血みどろになった。
「良い色だ。これがあるからゼブラ狩りはやめられねえぜ。」
「街に帰ったら山分けだからな。」
額に空白を残した少女の死体だけが、森の中に残されていた。

「うっ。」
一緒に夜営をしていたラグナーの背後から強烈な拳の一撃が見舞われる。
背後を見ても何もいない。
またインヴィジブルストーカーに違いない。
こう毎夜毎夜やって来ては、自分以外の人を攻撃していく。
有効な撃退方法を持たない貴方達には、結局力でうち負かすしかないのであるが、それがなかなか難しい。
今日もまた仲間が傷ついていくのを見ていくしかないのである。
しかも相手はこちらの回復呪文の量を超えたのを見極めて去っていく。
何時来るか判らない、来たところで逃げられ、こちらが疲弊していく様をずっと見られているかも知れない、それはとてつもない苦痛であった。
しかも相手の攻撃は自分には全くしてこない!
精神的疲労は溜まっていく一方だった。

ブレンダの家の前。
夜中になって彼女は現れた。
いつもにこにこしていたけれども、
内心では、快く思っていなかった。
ブレンダとスピットの結婚。
顔では祝福しても、心では…
自分には望めないもの、自分には訪れないもの、
と諦めていた心のゆがみが生んだ怪物。
ジールの姿をした、ジールの本心を映し出した
醜い影。
事件の解決のため、怪物はうち倒したけれども、
それで本当に解決になったのだろうか…
そしてもし、貴方の姿をした怪物が現れたら、
ソレは、何をするのだろうか。

迷宮を無事出てきた貴方達。
一路、フィルシムに向けて深い森の中を突き進んでいく。
ここは、貴方達の世界(のはず)
貴方達の常識の通用する世界(のはず)
この森を抜けると見慣れたフィルシムの街が見えてくる(はず)
そう思うと、心は晴れ、自然と歩調も軽やかになる。
ずっと、このままでいようか…

「これは、また強い魔力を持った『石』ですな。
こんな、良い物をこんな価格でいいのですかな。」
研究者風の魔術師が手にしているのは、七色に輝く『石』。
強い魔力が籠もっているが故に多くの人を不幸にしてきた『石』。
その出自からして不幸を背負って生まれたこの『石』は、
今、この研究者の手によって『夢見石』と呼ばれるモノへと作り替えられる。
それが、また多くの人を不幸にする事になるとも知らずに…
そして、今日も『石』は輝く。人を不幸にするために。

ゴーレムの剣の一撃が、リッキィの肩口を袈裟斬りにした。
四本腕をもった骨のゴーレムは、それでもなお攻撃の手をゆるめずに、二本目、三本目の剣をリッキィの身体に食い込ませていく。
四本目の剣が、彼女の身体を貫いたときにはもう、彼女は動かぬ人になっていた。
「頼る者があれば、ソレを潰す。戦いの基本だろう。」
セフィロムが貴方にそう言い放った。
セフィロムは倒したはず…
しかしソレは、『夢見石』が作り出した影に過ぎなかった様だ。
本物のセフィロムはさらに強く、さらに冷酷だった。
「さて、次は何をもいでやろうかしら。」
背筋に悪寒が走った。貴方は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。

『夢』…『夢』、『夢』…
どこからが『夢』で、どこまでが『夢』か…
最近は眠っていなくても『夢』を見る…

tealdice [shortland 『夢見石』第3回] tealdice あらすじ tealdice

1.それすらも日々の果て

 サラ、リッキィ、ラグナー、ルギアの一行は「恵みの森」の中を懸命に歩いた。どうしても元の世界(約300年後)に戻りたかった。それには、一か撥か、迷宮を踏破して、その中にある過去の『夢見石』と、自分たちが手に持っている未来の『夢見石』とを会わせてみるしかないだろう、そういう結論に達していた。どのみち、この時代でその迷宮の他に知った場所はなかった。
 夜半、彼らは目に見えざる者の襲撃を受けた。応戦はしたが、有効なダメージを与えられないうちに逃げられてしまった。
 また来るのだろうか。これも既にセフィロムの手の内なのだろうか。
 冷たい感触がじわじわとサラの精神を搦めていった。セフィロムに治療を施して以来、サラの変調は急激にその度合いを増したようだった。寝ても覚めても夢ばかり見ており、そのほとんどが悪夢だった。仲間に心配をかけるまいと、恐怖を意志の力で押さえつけてはいたが、彼女が恐慌を来す寸前なのはだれの目にも明らかだった。
 ラグナーはリッキィに言った。
「サラにもしものことがあったら…彼女が完全に『石』にやられてしまう前に、俺たちの手で止めを刺そう。サラは、人間のまま死なせてやりたい」
 リッキィは何も答えなかった。ただ、彼は本気だと知った。
 二人はまた、ルギアにも目を配らなければならなかった。彼は彼で、明らかに「石」を手に入れたがっていた。だが、とりあえずは4人欠けることなく、道行きを続けていた。

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2.世は情け

 「恵みの森」は、この過去の時制においても未来同様、あるいは未来以上に危険で、昼間なお油断のならぬ場所だった。
 突然、森を行く4人めがけて、バラバラと飛礫が降ってきた。バブーンたちの襲撃だった。4人は散開し、木の陰に隠れながら応戦したが、敵は数が多く、しかも樹上から仕掛けてくるので容易には始末できなかった。
 と、ファイアーボールが飛んで一区画分のバブーンを焼き払った(ように見えた)。森の向こうから、予期せぬ加勢が現れた。一同はなんとかバブーンを撃退し、加勢してくれたひとびととともにその場を離れた。
 現れた二人は、やはりサーランド時代の人間だった。一人はグリュック、今一人はハンクと名乗った。出会いしなから、この二人は先だって出会ったひとびととはちょっと違うようだ、と、一同は思った。ルギアがリッキィやラグナーを対等に扱うのを見ても眉をひそめたりしないからだ。それでも油断は禁物と、互いに互いを探り合った。グリュックたちは稼ぎを得るために、遺跡に入ってトレジャーハンターまがいのことをしているらしかった。ルギアは、自分たちもこれからある迷宮へ行くところだからと、二人の協力を仰いだ。迷宮に入るかどうかはともかく、二人は入り口まで同道してくれることになった。

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3.リフレイン

 その晩、再びインヴィジブル・ストーカーの襲撃があった。ご丁寧にも、昼間倒したバブーンたちのゾンビのおまけつきだった。全員で何とか撃退したものの、サラはセフィロムの悪意をはっきりと感じ取った。徐々に「その時」が近づいてくるようだ。夢の通り、皆が炎に焼かれ、ボーンゴーレムが4本の剣でリッキィを刺し貫くその時が。「リッキィが死んでしまう。」うわごとのようにそう言うのを聞きつけて、リッキィは「私は死んでないよ、サラ」と慰めたが、サラは「でも死んでしまう」と泣きそうな顔で答えるばかりだった。
 翌日も迷宮へ歩みを進めた。夜は再び来客を迎えた。今夜現れたのはセフィロム自身だった。「大人しく『石』を渡しなさい。大人しく渡しても赦してあげないけどね。」言いざま、強力なファイアーボールを放った。ラグナーやリッキィが炎に焼かれながらも突撃し、その肉を傷つけると、彼女は舌打ち一つを残して去っていった。
 どこからどこまでが現実なのかわからない。ここで感じる痛みと、夢とおぼしき場で感じる胸の痛みと、どこが違うというのか。どれもが実現されるものならば、どちらか一度きりにしてくれればいいものを。なぜ私たちが……
 サラはその言葉を強力な意志でもって呑み込んだ。言ってはならない。意識に上せてもならない、その言葉だけは。

 ナゼ私タチガコンナ目ニ遭ワナケレバナラナイノカ。

 だがこれ以上は耐えられそうになかった。「リッキィが死んでしまう…」サラは壊れたレコードのように(この世界にレコードはないが)繰り返した。「生きてるよ。死なないよ。」そう力づけるリッキィに耳を貸さず、サラは激しくかぶりを振って「だめ。ゴーレムが…ゴーレムがリッキィを殺してしまう」と悲鳴をあげた。「しっかりしなよ、サラ! 神さまのために『石』を封印するんだろう?」サラはゆるゆると顔をあげ、「わからない」と言った。もう私には神の意志がわからない、と。

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4.悪夢の末路

 予測通り、とはいえ望んだことではなかったが、翌日の夜も「彼女」はやってきた。交わす言葉から、昨夜の「彼女」は本体ではなく、今夜の「彼女」が本体らしいと知れた。「彼女」は夢の通り、ボーンゴーレム2体とアンバーゴーレム1体とを伴っていた。
「あなた、こんなところでこんなことをしている場合なんですか? ハッシマー村は今、大変なんでしょう?」グリュックはセフィロムを見知っているようだった。セフィロムはやや目を細め、グリュックを見定めた。「…中央の、リーヴェン家の者がまさかこのような場にいるはずはない。風来坊などの言葉に従う謂われはないわ」と言ってから、サラに目を移した。
「そこの女に頼っているようだな。」セフィロムはリッキィに冷たい視線を向けた。「頼るモノがあればまずそこから潰してやる。大事なモノから奪ってやる。私から逃れようとしたのが如何に愚かなことだったか、思い知るがいい。」サラが「待って!」と叫んだのと同時に、戦闘は始まってしまった。
 ラグナーとリッキィはボーンゴーレムを、ハンクは潜伏してアンバーゴーレムを叩きに行った。ボーンゴーレムは確かに手強かったが、二人とも何度も攻撃をかわし、一体ずつ沈めていった。
 戦士二人が2体目のボーンゴーレムにとりかかっていたとき、ふと、セフィロムが彼方を見やったようだった。向こうの空から、だれかが飛来してくる。それは「石」の魔力で生み出されたセフィロムのドッペルゲンガーだった。セフィロム本体はやってきたドッペルゲンガーとたがいに見つめ合った。それから音もなく倒れた。一番近くにいたハンクが確かめたところ、なぜか絶命していた。あっけない最期だった。
 主を失ったボーンゴーレムは、それでも主の命に忠実に、リッキィに対して攻撃を繰り出してきた。リッキィはそれをうまくかわしながら、ラグナーと協力して2体目のそれをうち倒した。

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5.迷宮

 セフィロムによる脅威は去り、サラは少し精神の平衡を取り戻した。
 迷宮の直前へ来て、グリュックは『夢見石』を取りに行くのかと一同を詰問した。彼(本当は「彼女」)は『夢見石』ないしその作り手には醜聞があり、あんな忌まわしい「石」は放っておくべきだと主張した。それを聞いてサラは本当のことを話す決心をした。自分たちが300年後から「石」によって飛ばされてきたらしく、元の世界に帰るため、そして今手許にある「石」を封印するために迷宮へ行きたいのだと、正直にうち明けた。
 グリュックもハンクも数日前までの半狂乱の彼女を見ていたため、最初は半信半疑だったが、彼女が今までと違って落ち着いていることや、他の仲間がそれを無言で肯定するように見守っていること、そして極めつけはリッキィが『夢見石』を目の前に見せたことから、それが真実であろうと判断した。
 グリュックは尋ねた。「300年後はどうなってます? 奴隷はいるんですか?」奴隷制が廃止されたラストンで、もとは能力奴隷の家系に生まれたリッキィは「ないよ」と即答した。サーランド王国はその驕りから滅び、今では戦士や神官も対等な人間として存在している、と。
 グリュックはその答に満足したようだった。彼(本当は彼女)は、実は現状の歪みを「おかしい」と強く感じており、奴隷たちの自立を支援する活動に携わっていた。トレジャーハンターをしているのも、自分よりむしろ元・奴隷たちによって形成されたコミュニティを養うためだったのだ。
 改めて二人の協力を得て、一同は迷宮に入った。レビーのノートを元にあらかじめ作戦を練り、入り口のボーンゴーレムとアイアンリビングスタチューを退け、通路の罠を解除してファイアーボールを回避した。「危険」と書かれていた宝剣には手を触れず、メモ通りにシークレットドアを見つけて進んだ。
 いよいよ4体のガーディアンと対決することになった。一同は最初、フロストサラマンダーから倒そうとしたが、これが異様に手強い相手だった。仕方なく最初はフレイムサラマンダーの部屋から踏破することにし、休憩を入れながらインヴィジブル・ストーカー、ウォーターウィアードをそれぞれ倒し、最終的になんとかフロストサラマンダーも倒すことができた。
 4体の像をそれぞれ4つの小部屋に設置すると、中央の部屋へ至る道が開けた。

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6.ここより永遠に

 中央の部屋の、そのまた中央にこの時代の「石」はあった。
 サラ、リッキィ、ラグナー、ルギアがその部屋に入った途端、空間は閉ざされた。グリュックとハンクはその部屋に入れなくなってしまったのだ。魔法も通らず、見ることと聞くことだけが残されていた。
 4人が部屋に入ると、リッキィの腰の「石」が緑色に発光し、全く同じ格好をしたひとびとが現れた。「石」を持ったリッキィ以外は、影と本人との見分けがほとんどつかなかった。影たちは、自分たちと同等の力を持って攻撃してきた。マクレガーたちのパーティはこれにやられたに違いなかった。
 ルギアはすかさず魔法で透明化して、戦闘から外れた。残る3人はまず一番厄介なルギアの影から倒し、あとはそれぞれ自分の影と向き合った。一番早く決着がついたのはリッキィだった。だが、リッキィはサラの影を本体と思いこみ、サラ本人に攻撃を仕掛けてしまった。サラ本人はまだ明晰になりきらない頭で、「実は自分が偽者なのか?」と混乱しそうになった。が、自分の影を始末し終わったラグナーが割って入って、最後にサラの影も消滅した。
 ルギアが部屋の隅から姿を現し、再び4人になったところ、リッキィの頭に言葉が響いた。
(その石を近づけてはならない)
 他の人間には聞こえないところをみると、「石」を持つ人間のマインドに直接語りかけてきているらしかった。中央の「石」は言った。
(その石を近づけてはならない。非常に危険だ。そこで壊せ)
 リッキィは処置に迷った。これこれこういう声がしたと仲間に相談し、ラグナーにも聞いてもらおうと「石」を渡そうとしたが、リッキィ以外の人間の手に渡れば「石」が盗られてしまうと思いこんでいるサラがそれを拒み、「自分に渡せ」と言って迫りだした。
 困って、「近づけるとどうなるんだろう」とこぼしたところ、サラが「どうなるかそっちの『石』に聞いてみたら」というので頭の中でその質問を発した。が、中央の「石」は「近づけるな。恐ろしいことが起こる」としか言わない。「こけおどしだ」と判断して、ついにリッキィは自らの手にある「石」を中央の「石」に重ね合わせた。
 すさまじい断末魔とともに、二つの「石」が崩壊したのがわかった。同時に部屋の中の空間がゆがみだした。部屋の外でこの顛末を見守っていたグリュックとハンクは、4人に声をかけ、無事を祈りながら別れを告げた。4人が挨拶を返すやいなや、その姿はかき消えた。

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7.顛末

 サラが次に気付いたとき、彼女はだれかに抱えられていた。
「大丈夫か」
 介抱しながらそう問いかけていたのは、セロ村で出会ったグレイのパーティのシーフだった。
 そこは「迷宮」の入り口だった。慌てて周囲を見回すと、気を失って横たわっている仲間たちの姿が目に入った。彼らも次々に意識を取り戻した。
 グレイに急かされて立ち上がったシーフに礼を言い、サラはもう一度周囲を見渡した。確かに、自分たちの世界に戻ったことが実感された。同時に、「石」への執着がすっかり失われていることに気付いた。なぜあんなモノにあんなに固執していたんだろう。今や彼女の精神は透明で澄明だった。
 一同はその後、無事にフィルシムへ戻った。冒険者ギルドにありのままを報告した。ギルドからの報酬は当然なかったが、セフィロムと戦ったときに手に入れた魔法の武器をいくつか売り払い、それによって大金を作った。サラも、修道院の多額の借金を全額返済できるだけの大金を手にした。
 パーティは解散し、めいめいが新たな歩を踏み出していった。彼らの航路は再び交わるかもしれない。あるいは二度と再び見(まみ)えないかもしれない。だがこの一時の冒険は確かに在ったのであり、4人の記憶から失われることはないだろう。

tealdice [shortland 『夢見石』第3回] tealdice サラの第三の手紙 tealdice

 神の忠実なる僕、神官サラからパシエンス修道院の皆さまへ。
 あなた方の上に恵みと平安とがありますように。

 ほむべきかな、私たちの母なる神エオリス、憐れみ深き母、慰めに満ちたる母神は、いかなる艱難の中にいるときでも私たちを慰めてくださいます。
 善なるかな、神の愛は私たちからすべてを奪い、同時にすべてを与えてくださる。その深さは無限であり、苦難が世界に満ちあふれていると同じだけ、慰めもまた私たちに満ちあふれています。

 院長様、兄弟たち、今日ほどこの身にあふれる神の愛を感じたことがあったでしょうか。私たちの信仰の働きと、愛の労苦と、母神エオリスに対する望みの忍耐とによってもたらされる福音を、確信したことがあったでしょうか。

 悪夢のような日々から解放されて、私は今、清しい心で聖句を誦ずることができます。「あなたがたは神にあっていつも喜びなさい」と。

 どのような悪夢であったか、それはとてもここに書けるものではありませんが、絶望と苦痛と不信とを十二分に味わった日々であったと言っておきましょう。
 恥ずかしながら、恐ろしい敵に「お前の大切なモノから傷つけ奪ってやる」と脅され、私はほとんど信仰を失いかけていました。主が私に何をお望みなのかまるでわからず、ただ敵の力に怯え、自分の無力に絶望し、神の愛を信じられず、仲間を失うかもしれない恐怖に打ちのめされていました。あるいは敵に、渡してはならないものを渡して許しを請うべきなのかと、何度思ったかわかりません。

 それに私は、そのとき、神の僕として忌むべきモノに非常に執着していました。兄弟たち、あなた方も知っている通り、苦痛すら神のくだされるものでありましょう。その苦痛からただ逃れるために、私は忌まわしい力に頼り、夢の世界に逃げ込もうとしていたのです。

 私をその泥沼から救ってくれたのは‥‥もちろん神の御力ではありますが‥‥この冒険における仲間たちの存在でした。夢と現実の区別も分かたず、ほとんど錯乱しかけていた私を良き道に引きとどめ、最後まで希望を紡ぎ続けてくれた彼ら一人一人に、心から感謝しています。彼らのおかげで私はこの世界に立ち戻り、勇気と信仰とを取り戻すことができたのですから。

 今ではこの試練をくださった神に感謝しています。愛する兄弟たち、こののち私は決してためらわないでしょう、「私たちはみな神に愛されている」と語ることを。また、「正しく歩くことに努める人間には、神はあらゆる善意と正義と真実との実を結ばせてくださる」と説くことを。

 最後にお知らせしておきます。冒険者ギルドから請け負った仕事は果たせませんでしたが、運良く大金を手に入れることができました。身の回りの整理が付き次第、近々にそちらに戻るつもりでおります。どうかもうあの借用書のことで頭を悩まされませんように。私のような若輩者でもやっとお役に立てたかと思うと、いえ、それよりも皆さまの喜ぶ顔を見られるかもしれないと思うと、今すぐにここから飛んで行きたい気持ちです。

 母なる神から平安ならびに信仰に伴う愛が、兄弟たちにありますように。
 変わらぬ真実をもって、すべての人々に、恵みがありますように。

フィルシム郊外にて サラ

tealdice [shortland 『夢見石』第3回] tealdice プレイヤーのコメント tealdice

 何しろ無事に終わってよかったです…………

 辛かった……(笑)。何が辛いって、今回やったサラというキャラは「非常に意志が強い」という設定を背負っていたため、あ〜んなヒドイ夢を見させられてもなかなか「弱音が吐けない〜!!」のでした。さすがに「リッキィが死んじゃう〜」とか「ああああ、ゴーレムが、ゴーレムがぁあああ」とかって妄言を吐いてましたが(それを見て対応に困るグリュックとハンクの様子が可笑しかった)。しかし最後まで「どうして私たちがこんな目に!」ってカミサマを呪う言葉は吐けませんでした(つまんない)。口を開くと吐きそうで怖いからどんどん無口になるし……何にせよロールが難しかったです。うまくできなかった部分も多々…。反省。

 まぁ、終わりよければすべてよし。振り返ってみると、お金の分配なんかもおたがい譲り合うようなイイひとだらけのパーティでしたね。リッキィはガラは悪いけどウォームハートなイイやつで、サラも途中からは年下の彼女に頼り切ってた気が。ルギアも結構おひとよしで、さらに「しがない中間管理職」っぽい感じが出てて可笑しかったですね、プレイヤーは若いのに(笑)。ラグナーも…彼の「サラは人間のまま死なせてやろう」発言にはいい意味で驚きました、いやホント(笑)。

 みなさま、フィルシムへお立ち寄りの際は、パシエンス修道院へどうぞ。今回の一件で、「神の愛」についてほぼ無敵の信仰を持つことができたサラがおもてなしいたします(笑)。


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