greendice [shortland 『夢見石』-サラの紹介] greendice 背景設定 greendice
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■ 生まれ ■
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 母親はイノア Enoah という名前以外、一切不明。あるとき、パシエンス修道院に転がり込んできて、下働きとして住み着いてしまった。もっとも、そんなことはこの修道院では珍しいことではない。

 イノアが修道院にやってきたときにはすでにお腹にサラがおり、およそ半年後に出産した。産後の肥立ちが悪く、生まれた赤ん坊に「サラ」と名づけたあとすぐにイノアは死んでしまう。父親がだれであるかは、結局わからないままになった。

 その後、赤ん坊は修道院の皆の手で育てられた(これも珍しいことではない)。長じて冒険者となり、『夢見石』の事件に巻き込まれる。

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■ なぜ冒険者になったか ■
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 修道院に対して経済的援助を行うため。
 もともと裕福ではないのに、弱者救済を行うものだからどうしても経済的に困窮する。
 毎年、年越しなどの費用を大変な苦労をして工面しており、サラはそれらを見るに見かねて、かつ自分を育ててもらった恩返しのために、冒険者として稼ぐことを決意した。

 17歳のときにフィルシム中央の神殿の附属学校に入学し籍を置いた。寄宿代は支払えないので、通いで修学し始めたが、通い出したとほぼ同時にパシエンス修道院に困った「借金話」が持ちあがってしまった。

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■ 「借金話」のこと ■
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 パシエンスでは以前から、とある金貸しの主人と懇意にしており、火急の費用その他を用立ててもらうことがあった。この金貸し---サムエル=ダンビオはたいへん信心深い人間で、金を貸すというよりはむしろ寄付をするような気持ちで、修道院に対して何度も快く融通してくれた。修道院側が恐縮するため、最初は形だけの借用書を作っていたが、そのうちに完全な喜捨になり借用書も作らなくなっていた。

 そのダンビオ翁が亡くなって、息子のマリウス=ダンビオが跡を継いだ。

 マリウスは古い借用書を持ち出してきて、パシエンスの院長に突きつけた。それは17年前の、50gp分の借用書だった。ダンビオ翁は亡くなる前に、パシエンスに関わる借用書を始末していたのだが、この一枚だけ運悪く始末し損ねてしまったらしかった。

 マリウスは言った。

「こちらが神にお仕えする場所であるからといって、借金をお返しいただかない理由にはなりますまい。これまでの利子をつけて、きっちり払っていただきましょう。支払っていただけない場合には、こちらの地所を担保としてそっくり渡していただきます。ま、神の僕(しもべ)であられることを鑑みて、返済猶予は多少長くいたしますがね」

 マリウスの計算によれば、年利25%(正確には月利1.9%)、17年分の利子がついて、総額2,220gpになるという。放っておくと3年後には4,340gpに、5年後には6,780gpにもなる。どこをどうひっくり返しても返せる金額ではない。それを向こう5年間で返せというのだ。

 この話を知って、サラは、一刻も早く稼ぐために神学校で単位を取って取って取りまくり、1年で卒業に漕ぎつけた。この間、授業料免除をかけて上位成績をキープすることにも腐心し、猛勉強した。

 待ちに待った修了と同時に早速冒険者として登録し、いくつも仕事をこなした。多額の借金に対しては「焼け石に水」と知りながら、僅かずつでも修道院に送金し続けた。

 サラが、こうしたほとんど絶望的な状況のなかでも、あきらめずに何とか修道院を救おうと振舞っていたのは、ひとつには彼女の「神は自ら助くる者を助く」という信条によるものだが、その他にもうひとつの理由があった。

 借金の証書が17年前のものだと知ったとき、サラにはピンとくるものがあった。それが自分の出産にかかわる費用ではないかと思ったのだ。院長は「違う」と否定したが、どうしてもその疑念を払うことができず、借金に対する責任を感じずにはいられなかった。その責任感がいっそう彼女を冒険へ向かわせていたのだ。

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■ 影響を与えた人物 ■
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◆院長・クレマン Clemens (「慈愛」の意)‥‥
 パシエンス修道院の現在の精神的屋台骨。サラに対しては、他の子供たちと同じように公平に接していたが、僧侶としての資質や神学に対する熱心さを認め、神学校に進むことを後押しする。基本的に「寛容の人」で他人と争わず、どんな相手でも赦してしまうため、若いサラからするとやや物足りないように感じられていた。

 しかし、サラたちの年代は知らないが、若いころの彼は「寛容」どころか粗暴で知られ、怒鳴り声の大きさから「いかづちのクレマン Clemens d'Eclair (クレマン・デクレール)」などと呼ばれていた。もともと富裕な聖職者の家に生まれた彼は(生まれ79%)、異教の集会に出てみたり怪しげなクスリをやってみたり、とにかく悪さの限りを尽くしていた。どこで改心したのか、ある時期を境に不良行為はぱったりと止んで、気が付いたら立派な人格者で修道院院長になっていた次第である。
 それゆえ、本当はサラたちが思うよりもずっとエネルギッシュな人物である。

◆ラザロ Lazarus (「乞食」の意)‥‥
 パシエンス修道院に間借りしていた大道画家。サラが10歳の誕生日を迎えたときに、「一度だけだ」と言って生前のイノアを描いてやったことがある。ただし、彼の主義として絵は必ず路傍の石か壁に描くので、何日か見に通ううちに消えてしまった。「世に流転せざるものはなし」が彼の信念で、「だから事物には執着するな」という立場ゆえらしい。
 448年、サラが14歳のときに旅に出たきり戻らない。

◆マルタ Martha ‥‥
 サラの母親代わりになった女性。噂ではドメスティック・バイオレンスゆえにパシエンス修道院に転がり込んだらしい。やさしい人物だったが、堪え忍ぶ消極的女性の典型で、サラに逆の意味で強い影響を与えた(つまり、反面教師的に、諦めに対する反発と自立心とを強く植え付けることになった)。
 長いこと修道院にいたが、451年ごろにいきなり家族を名乗る男性(シメオン=ベタニア、夫ではない)が現れ、クダヒ方面へ連れ帰ってしまった。以来、音信不通である。彼女がいなくなったのは、ちょうどサラが神学校で過ごしていた間の突然の出来事で、別れすら言えなかったのを今も悲しく思っている。