orangetriangle第06話〜第10話 プロローグ&エピローグ <<Previous ■ Next>>

orangedice [shortland VIII-第06話] orangedice プロローグ orangedice

「もう少し右です。でないと2台とも呪文の効果範囲に入りません。」
「おい、跡の方はちゃんと消せたか。」
「バッチリだ。」
「そういえば、エドウィナから連絡がないな。」
「くたばったんだろ。」
「程々にしとけば良いものを。馬鹿なヤツだ…。」
「準備OKです。いつでも良いですよ。」
 複数の男達が、慣れた手つきで2台の馬車を森の奥深くに止めていた。二人の戦士が、馬車を運転し、一人の盗賊風の男が、その轍の跡を器用に消していく。僧侶風の男が二人の戦士に指示を出し、魔術士風の男がその光景を観察しながら頭の中で素早く計算している。どの男も熟練の腕と連携を持った冒険者であることは一目瞭然だった。その中で、所在なさげにその辺りをウロウロする少女が、ただ一人『浮いて』いた。
「おい、そんなところにいたら邪魔だ。ひき殺しちまうぞ。」
「す、すいません。」
 その場から、一歩引く少女。彼女の背後で、気配無き影が一緒に動く。
「ようしOKだ。いつでも良いぞ。」
 作業を終えた、男達が僧侶の側に近づいてきた。皆思い思いにポーションを取り出し、飲み始めた。
「全く、毎回のこととはいえ、よくも金が続くものだ。人数分のポーションだけでも結構な金額になるだろうに。」
「我々は、言われたとおりにするだけ。難しいことは神官の考えること。これで喜ぶヤツと、悲しむヤツがいるんだから良いじゃないか。俺らは金が手に出来るわけだし。」
 下品な笑い声が、辺りに響く。一人ことの成り行きを思って蒼くなって震える少女。
 その様子を観察していた神官が、彼女に優しく声をかける。
「この薬を飲んで置いて下さい。もしもの時に、貴女を救ってくれますから。」
 言われたとおりにポーションを飲む少女。隣では、魔術師が呪文の詠唱に入った。
   大いなる月の魔力よ
   悠久たる眠りのシンボルに縛られし
   我らの仲間を 神の可愛い御子達を目覚めさせ給え
   ディスペルマジック
 今まで全く気配の無かった馬車の中で何かが動き回る、物音が聞こえる。その数が段々と増え、やがて勝手に扉が開いて、中からおぞましい怪物が姿を現した。
「さて、作戦成功。今度は無事に育ってくれよ。可愛いコアちゃん。」
 足早に去っていく冒険者達。震える足を引きずりながら、それに遅れまいと必死に付いていく少女。その後ろに、影…
 ある昼下がりの、丘陵地帯にほど近い深い森の中での出来事。

orangedice [shortland VIII-第06話] orangedice エピローグ orangedice

「どうやら、エドウィナがくたばったようだぜ。」
 感情のこもっていない、盗賊風の男からの淡々とした報告。
「ホントか? 馬鹿なヤツだ。」
 ケラケラ笑いながらそう反応した、棹状武器を脇に抱えた男の第一声。
「チッ、あれほど深追いするなと言っておいたのに。」
 死よりも戦力の低下に憤りを感じるリーダー格の戦士。
「彼女に預けていたラルヴァンはどうなりました?」
 やはり彼女の死よりも優先するものがあるらしい僧侶。
「そっちは大丈夫なようだぜ。ちゃんと任務に就いている。」
「それは、よかった。あれには手間がかかっていますから。」
 僧侶らしい慈愛に満ちた笑顔が、かえって恐ろしい。
「それがよぅ、もう一つ面倒な知らせがあってな、報告に行った新人ちゃん、こっちも、くたばっちまいやがったぜ。」
「あぁ、先日…ボタンが…二つ、反応して…いましたね…。」
 ローブの影から抑揚のない薄気味悪い声が響く。
「お前は気持ち悪いからしゃべるな。う〜鳥肌が立つ。」
 悪態を付く戦士。
「作戦が少し変わるな。折角、ガラナークに対する切り札になったものを。」
「まだ、洗脳が済んでいないのに行かせた貴女の責任問題ですよ。」
「まあ、済んだことは仕方有るまい。別件で取り戻すまでだ。まずは、不思議ちゃんが来る前に、この地での下準備を進めるまでだ。」
「へ〜へぃ。キリキリ働かせてもらいますぜ。でも未確認情報だと、あの家にはまだ生まれたばかりの頃に捨てた双子の兄が、どっかに居るって噂ですぜ。」
「あの国は、馬鹿の一つ覚えのように同じパターンを繰り返しますからね。案外この辺に捨ててたりするかも知れませんね。」
「兄ということは、男か。男じゃ余り意味無いんだが。居ないよりはましか。よし、そっちも調べておけ。」
「へー。全く人使いの荒いリーダーだぜ。こっちはシーフが一人減って仕事倍増だっていうのに。やってらんねぇぜ。」

orangedice [shortland VIII-第07話] orangedice プロローグ orangedice

「へ〜い、報告しますよ。現在何者かの手により、情報漏洩の可能性大。動きづらくてたまりませんぜ。報告君もいないもんだから、なんで俺が報告まで…」
 ブツブツと、独り言のように文句をたれる盗賊風の男。
「こう邪魔だてするようだと、本格的に抹殺に動いた方が良いようだな。しかし、神殿とのつながりは切れたのだろ? 魔術師絡みか?」
 リーダー格の男は、そう発言したまま思案を始めた。
「ケヶ、直接手を下しちまえ。殺るのが早えぇ。」
「そういうわけには行かないでしょう。我々にもしものことがあれば、フィルシム地区の計画に支障をきたします。これ以上手駒を失うわけには行きませんよ。それより、彼らの実力のほどはいかがなモノだったのですか? 直接見てきたのでしょう。」
 僧侶の視線の先には、不釣り合いなほど可憐な、白いワンピースを着た少女が、ベッドの端にちょこんと座っている。
「面白い人たち。」
 クスッと笑った気がした。何故か、その場にいた男達の背筋に冷たいモノが走った。
「へー、で、どうすんです、実際のところ。」
 盗賊風の男に発言を求められたリーダー格は、顔を上げ、
「バックボーンのあるヤツから潰そう。パーティメンバーは判ってるはずだ。弱点を狙って罠を張れ。パーティ行動がとれなくなったところを、各個撃破する。」
「やはりその作戦しかありませんね。布教活動がやりにくくなった以上、そちらに全力を尽くしましょう。よろしいですかアラファナ嬢。」
「まかせる。好きにやって。」
 いつもと同じように、興味なさそうに生返事をする少女。
「…危険だ…あのメンバーには、強力な力を持つ者が…全てを飲み込みかねない…」
「ああ、気持ち悪いからお前は、しゃべるなって言ってるだろう。俺が手を出しゃ、一撃だぜ。簡単簡単。」
「邪魔するヤツは全力で潰すまでだ。あと前に言ってあったガラナーク方面の話も頼んだぞ。」
「へー。がんまりま。」

 暫く後、明かりも付けずに真っ暗な部屋の中に少女アラファナが一人、先ほどと同じように、ベッドサイドに腰掛けている。
 もっともっと美味しくなって私と同じ匂いのするモノ達よ。そして私と遊びましょ。命よりももっともっと大きなものを賭けて。

orangedice [shortland VIII-第07話] orangedice エピローグ orangedice

「あなた、ナルーシャにこんな良縁が舞い込んできたわ。見て、フォアジェ公爵ご本家の次男、ラルソン・バルト・フォアジェ様からのお申し込みよ。ほら、持参金もこんなに。無理してでも色々な社交場に出させていた甲斐があるわ。今まで妥協しないで本当に良かった。そこらの貴族なんかとは比べ物にならないもの。こんな良い話はもう二度と無いはずよ。この縁に決めましょう。」
 あまりの良縁にびっくりして声のトーンが一オクターブは高くなっている母、ミルテ。一応は、相談という形を取っているものの、心の中では既に決心が付いていることが判っている父ヨカナンは、
「いい話ですね。早速返事を書きましょう。」
と静かに答えた。しかし、その声は同様に驚きで震えていた。
「ええ、先方の気が変わってしまう前に。とびっきりの封筒に、最高級のインクと蝋を使いましょう。」
 あわただしく、返信の用意をさせる母であった。

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ワレヨ、メザメヨ。セカイハソコニヒロガッテイル。
ワレヨ、メザメヨ。ワレノノコシタセカイヲアルコウ。
ナゼ、メザメヌ。ナゼ、ココロヲトザス。
ワレノカラダヲ、ワレノチカラヲ、ナゼトジコメル。
ソウカ、ワレノフッカツヲノゾマヌモノガイルノカ。
トキハ、マダアル。
ワレノフッカツノヨウインモ、コノセカイニハ、イクラデモアル。
トキガミチルマデ、ユックリト、マトウ。
ソシテ、シッカリトミトドケヨウ。
ワレノ、ツクリダシタルセカイノミライヲ。

orangedice [shortland VIII-第08話] orangedice プロローグ orangedice

 セロ村の北側、アリスト丘陵に面した村内の一番奥まったところにある二階建ての大きな建物、それが村長の館である。その村長の館には、村の歴史の古さをうかがわせる膨大な蔵書が、半ば放置されていた。その蔵書を整理という名目で丹念に読み進めていく男の姿が、ここ最近見られるようになった。
「しかし、さすがにサーランド時代から続くと言われるだけあって、すごい量ですねぇ。貴重な本も多いですし。惜しむらくは管理する者が居なかった為に本に傷みが見られることでしょうか。しかし、これで確信が持てました。この村にはやはり何かしらの秘密がありますねぇ。ガルモートの馬鹿話を信じてみた甲斐がありました。でも、真相を突き止めるには、少々時間がかかってしまいますねぇ。彼にはもっとがんばってもらわなければ。
 ふふ、まああれだけ乗せておけば、ちゃんとやってくれることでしょう。馬鹿は扱いやすいから好きですよ。」
 そう独り言を呟きながら、黙々と蔵書を読みふけっていくのであった……

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「やはり、あの村には『何か』ある。虎共が固執していたのもその『何か』が理由だろう。人間共と戦いを始める前に、あの地から人間共を追い出してしまえ。幸い虎共はハイブとか言う連中の被害にあって弱体化している。人間と仲違いをして村を出ているのも好都合だ。やってしまおう。」
「少々お待ちを。先月『子供』たちを使って、探りを入れてみましたが、守りはなかなか強固です。直接手を下すのは、危険かと。」
「確かにそうだな。新たなる子が産まれない以上、同族を死の危険にさらすわけには行かない。『あれ』が完成するか、『審判』が下れば状況も変わるだろうが。」
「ならば、生命線を断ち切ってしまえば良いでしょう。あの村は細い街道一本通じるのみ。そこを塞げば、自ずと衰退します。生活が立ち行かなくなれば、あの地を離れるでしょう。」
「そうか、判った。ならばその件、お主に任せた。実験中の『あれ』を持っていって良いぞ。実験結果を報告するが良い。」
「判りました。」

orangedice [shortland VIII-第08話] orangedice エピローグ orangedice

ソウカ、ソウダッタノカ…
コノギジュツ、コノロンリ…
スベテガツナガル…
まじっくますたりートハ、コノヨウナモノダッタノカ。
スバラシイ、ウツクシイ、カンペキダ…
ワタシハ、スベテヲテニイレタ。
アトハ、コノカラダヲ、テニイレルマデ。
モウスコシ、モウスコシ…モウスコシノトキデ、ワタシハカンゼンタイトナル。

あるてっつぁ・しりる・のいまん・すてっぷわごん…
マワリノモノニハあるとトヨバレテイルノカ。
マジュツシラシイナガイナマエデハナイカ。
『AL』ノナヲツケルトハ、スイキョウナコトヲスルモノダ。
…ホウ、スデニ、ワタシノショウタイニ、キガツイテイルトハ。
イマスコシ、ヨウスヲミヨウ。
キョウフ、ゼツボウ、コウカイ、スベテヲアタエヨウ。
ワレノフッカツヲノゾマヌモノスベテニ。

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迷宮の中を歩く《あなた》。
文字通り家族同然の仲間、幼馴染の好敵手、そして…
愛しのジェラルディンと共に…
懐かしい『夢』だ…
《あなた》はもう喪ってしまったのだから…
何か、違和感を受ける。
迷宮の中を歩く《あなた》。
その手には、ウォーハンマー。胸には信仰の証である聖印。
神託の名の下に集まった仲間、世界の行く末を見つめる『神の眼』、そして…
愛しのラクリマと共に…

幼なじみ、いや腐れ縁のゴードンと共にガラナークを出発する《あなた》
途中の隊商でショーテスを旅立ったセリフィアと出会う《あなた》
フィルシムの『青龍』亭で協力者のヴァイオラと出会う《あなた》
そして同じく『青龍』亭で運命の人ラクリマと出会う《あなた》
セロ村への道中で雪に埋もれたGに駆け寄るラクリマと《あなた》
私は《あなた》である。
《あなた》は私である。
これは、『夢』?
『夢』ならば、違和感はない。
しかし、違和感がないことが、『違和感』である。
『夢』の中で『夢』を見る。

《あなた》は天翔る剱である
天空よりこの世界を見守る女神の『眼』となって
地下迷宮の奥に潜りし『核』を
探索の末、見つけだしたる剱である
その刃は揺るぎ無い心を持って敵を討ち滅ぼす
それが世界の『夢』なのだから

北の大地、深い森の中、前方には雪を被った山脈
見上げれば、降り始める、白き雪
翼をもがれた天使が、大空を飛ぶことを忘れ大地に横たわる

雪は全てを覆い隠す
深き森の北の端、魔導師達の夢の跡
いにしえより旅人達で賑わう村
深きところ、浅きところで人々の生業に寄生する
静かに、徐々に、しかし、確実に

心に光を持ちし者達
かの地で、真実を見付けるだろう
それが、正しき『道』?
それともまがいものの『道』?
それらを見る『眼』はきっとそなた達の中にある

《あなた》は目を覚ました。
《あなた》は《あなた》であった。

orangedice [shortland VIII-第09話] orangedice プロローグ orangedice

 恵みの森の中にあったダーネル工房。サーランド貴族であるダーネル・リッシュオットがモンスターの研究、育成の為に造ったサーランド中期の地下工房である。
 ダーネルは、才能はあるものの、いわゆる変わり者であった。彼は、生まれや魔術技能では人を区別しなかった。そのような区分けは意味のないものだと思っていた。それは今の時代にとっては、正しいことであったのであろうが、それを口にするほど愚かでもなかった。
 彼は、サーランドにある館や財産、奴隷などを全て売却し、自分の目で見て才能がありそうな人材だけを集めた。才能が有れば、たとえ奴隷でも犯罪者でも日陰者でも人外でも。実際彼の元に集まった研究者達は、僧侶であり孤児であり獣人などであった。衛兵も剣奴出身、犯罪者、蛮族などで、彼らのほとんどは、夫婦生活を営んでいた。
 彼は、その様な者を集めて工房を造り、自分の研究成果を踏まえ、研究員に様々なモンスターを育成させ、それを売却しては、その売り上げをまた研究費用に回した。
 彼が最終的に何を目指していたのか、それは判らない。何故なら、彼の研究について殆ど資料が残っていないからであり、彼の研究は途中で終わりを迎えるからだ。彼の工房は蛮族の襲撃を受け、滅んでしまった。今際の際にダーネルは、工房を地下に埋めた。育成中の怪物が逃げ出さないように。自分の研究が持ち出されないように。研究費用として残してある財宝を奪われないように。そして押し入った蛮族を道連れにするために!
 こうして、彼の研究と工房は、長い間忘れ去られていた。地表が風雨で抉られ、入り口が地表に姿を現すまでは。

orangedice [shortland VIII-第09話] orangedice エピローグ orangedice

私は一体、何者なのだ。
私は何を忘れているというのだ。
私は、魔術師なのか、それとも戦士なのか。
男なのか、
それとも、女なのか。
いや、その前に人なのか?
何も判らない
私には、何もない。
いや私には、ある。
この苦痛が、いつまでも続くこの苦痛が!
助けてくれ、
もう、お前しか頼ることが出来ない。
…が来る。
が来る前に、私の永遠の時を終わらせてくれ。

orangedice [shortland VIII-第10話] orangedice プロローグ orangedice

 SL歴120年代、首都サーランドにて。今、王朝は栄華を極め、既に衰退の一途を辿り始めていた。そんな中、この物語は始まる。
「早いもので、現在の地位に就いて15年余りの時が流れた。その間、私はこの身体に対して色々と試してみた。結果は何も出て来なかったが、やはりしっくり来ないモノを感じる。その感じは、私としての記憶を持ってから今までずっと変わらない。いやむしろ、強くなっているような気がする。何かしなければならない。何か忘れている気がする。もどかしい。はっきり言えば、今の私は私ではない。その想いは強くある。この退廃と堕落が渦巻く都市での生活や、貴族同士の勢力争い、幼稚な駆け引きにも正直疲れた。幸い金には困っていないので、どこか地方にでも引き籠もって、本格的に『自分探し』の研究でもやっていこうかと思うが…こんな莫迦げた事を言い出す私に、お前は付いてきてくれるか?」
 ある貴族の館の中。中年の魔術師としては良い体躯をした貴族の男と、身なりの良い上流階級の若い女性が二人きりで相談事をしていた。
 それからわずか一週間後には、この館と財産は全て処分され、この館の所有者は、どこかの地方に引き込んでしまった。

orangedice [shortland VIII-第10話] orangedice エピローグ orangedice

 その日から、ダーネルは変わられた。
 口数が減った、食事を共に取る回数が減った、ふさぎこんで何か考える時間が増えた。
 傍目からは、判らないちょっとした変化。
 他の誰も気がつかない、些細な変化。
 しかし、確実に来ている、何か判らない大きな変化のうねりが。
 平和な時が終わる。楽しいひとときは、まるで泡沫のように。
 そう、これは予感。だが、確実なる未来の、現実。
 もうすぐそこまで……


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