▼その1▼
「よし、野郎共、凱旋だ!この村の危機を救って見せるぜ。ひ弱な弟なんかに任せてられるか。」
「そうそう、その意気ですよ。がんばりましょう。もしかしたら建村以来の一大危機かも知れませんし、こういうときこそ戦士としての修行を積んだ貴方の力が必要ですよ。」
「それより、神殿の件、お頼み申します。」
「おう! 任せておけ。今は昔からいるじじいが死んで、若いのが一人いるだけだ。なんとでもなるって。お前の方が、実力があるはずだからな。ちょちょいってなもんよ。」
「期待して、お待ちしております。」
「そうそう、お前にも仕事回してやるからな。」
「えー、いいよ別にぃ。流れの冒険者の方が気楽だしぃ。」
「何言ってんだ。俺ら仲間だろ。みんなで村を盛り立てて行かなきゃ。丁度良い役があるんだ。昔、俺に『実力もないのに大きな口を叩くな』ってほざいたやつがいてな。そいつを首にしてやるんだ。その後任がお前だ。自警団隊長はもてるぞ。」
「そーかぁ、もてるかぁ。いいなぁ。」
「待ってろ、お前ら。ギルドも塔も、なんだって作ってやるからな。」
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▼その2▼
「お願い、カイン。貴方だけでも逃げて…」
それが《あなた》の聞いた最後の言葉だった。
今回の仕事も、《あなた》達、リューヴィル一行には簡単な仕事だった。いや簡単な仕事なはずだった。《あなた》達は、冒険者として仲間を組み、成功の階段を駆け上がり始めていた。商人の息子であるリューヴィルを中心に若いながらもパーティの連携を強めていた。今回の依頼は、フィルシムの盗賊ギルド絡みの話だった。内容は「ある迷宮で行方不明となった駆け出し冒険者の遺品回収」というものだった。迷宮は、良く知られたもので、既に何もないといわれているが、よく駆け出しの冒険者の肝試し的な意味合いを込めて最初の冒険に利用するところであった。
報酬もそこそこだったので、早速その迷宮に向かったのだが…まさかそこがハイブの巣になっているとは思いもしなかった。ハイブの作り出す匂いから発せられた魔法で、ファラとディードリッヒが眠らされ、同時にリューヴィルが麻痺毒に犯された。一気に劣勢に立たされた《あなた》達は、残りの仲間、アルトーマスとジェラルディンと共に逃げた。しかし、《あなた》達より足の速いハイブは、徐々にその距離を詰めていく。覚悟を決めたアルトーマスは、ハイブの前に立ちはだかり、
「カイン、妹を頼んだ。」
と、《あなた》に言って、その長剣でハイブをなぎはらい始めた。しかし、数の上での劣勢は跳ね返すことは出来ず、やがてハイブの波に飲み込まれていった。彼の姿を見たのはそれが最期であった。
《あなた》は涙をのんで、ディードリッヒを護りながら、逃げた。必死に逃げた。しかし、その逃げ道ですらハイブの罠だった。《あなた》達は、崖の上に出た。遙か下は河。…もうダメか…そう思った瞬間、誰かが《あなた》の身体を押した。
《あなた》は崖の下に落ちていった。そして気を失った…
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