ラクリマ・マテリア:#02 <<Previous ■ Next>>
[shortland VIII-L02 half] ラクリマからサラへ第一の手紙 |
親愛なるサラ、 お元気でお過ごしでしょうか。 先日、隊商が村に来ていたのに、院長様への手紙を託すのをすっかり忘れていました。この手紙と一緒にお届けしますので、院長様にはくれぐれもよろしくお伝えください。 セロ村に来てからそろそろひと月になろうとしています。私もこちらでの生活になんとなく慣れた気がします。外は怖いところだとずっと思っていましたが、そうでもないのですね。もちろん、怖いことはたくさんあります。哀しいことも。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今日はお休みの日で、一日自由に過ごしました。でも、昨晩Gさんが倒れてしまって、気になって眠れなかったので、午前中は寝ていました。なんだかこちらに来てからずいぶんと自分が怠け者になったようです。サラはGさんはご存知ないですよね。彼女はセロ村のすぐ手前で倒れていたのですが、ハイブを退治するために協力してくれています。彼女のお母さんはハイブに殺されてしまったのだそうです。それでも明るく振る舞ってくれる、とてもいいひとです。肌も髪も透き通るように白くて、きれいなひとです。年も同じですし、同じ女性なので、どこかへ行くときにはよくついてきてもらったり、一緒にいることが多いです。 今日は午後から、Gさんに付き添ってもらって、ヘルモークさんのお宅を訪ねました。ヘルモークさんのことはご存知かもしれないですが、虎族の獣人さんです。生憎お留守だったので、キャスリーンお婆さんのお家を訪ねました。お婆さんはとても親切な方で、この辺に生えている薬草について詳しく教えてくださいました。それでもまだまだ学び足りないようです。また教えてくださるそうですので、お言葉に甘えて暇を見て訪ねようと思っています。あ、でもその前にお婆さんの肩をもんでさしあげなければ。院長様も前にほめてくださいましたよね、私のマッサージは上手いって。これでもっと力があれば申し分ないんですけど、セリフィアさんみたいに。 セリフィアさんというのは、パシエンスにも泊まった、背の高ーい男の人です。長ーい刀を背負っています。セリフィアさんは、生き別れのお父さんを探すために、はるばるラストンから来たみたい。何でも数年前に、この村にお父さんが滞在していたことがあって、それを手がかりにやってきたのだそうです。本当のところ、私はセリフィアさんはちょっと苦手です。だって一言も喋らないし、村に着いたそうそう、村の人をぼこぼこに殴ったんです。私、暴力があんなに怖いモノだとは知りませんでした‥‥。でも、昨日の晩から、ちょっと笑顔が見られるようになって、思っていたより怖い人じゃないのかなぁと思ってます。Gさんもヴァイオラさんも「彼はいいひとだ」って言うし‥‥。 ヴァイオラさんはクダヒから派遣された神官です。頭も切れるし、美人だし、物知りです。優しくて大人で親切ないいひとです。ぐちゃぐちゃになりそうなところでも、うまくまとめてくれたりします。サラや院長様とはちょっと違った安心感みたいなものがあります。お酒が大好きでよく飲んでいますが、赤くなったのを見たことがありません。あと、背が高くて羨ましいです。ただときどきレスターさんと口げんかをするので、そんなときは哀しくなって困ります。 レスターさんは、ガラナークのひとです。私より二つも年下なのに、御神託を受けて、すごいです。実は割と最近にも、第二の御神託を授かっていました。神様と話せるってすごいですね。ちゃんと神様っているんだと安心しました。レスターさんはなんだか背伸びしたがりみたいです。すごい人だけど、気負いすぎっていうか、なんだか言葉が上手く通じないようなことがよくあります。私が頭が悪いだけかもしれません。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 明日は猟師さんたちのグループとまた森に入ります。そういえば、この間、猟師さんたちと一緒に森へ行ったとき、ドッペルゲンガーに襲われました。すごく怖かったです。全然知らないうちに猟師さんにすりかわっていたんです。私は本当に全然気づきませんでした。レスターさんが気づいたからよかったけれど、あのまま村に帰ってしまったらと思うとぞっとします。あとから考えて、本当に怖かった。 明日からの日程ではそんなことがありませんように。主よ、どうぞ守りたまえ。明日は歩き詰めですが、明後日は少し余裕があるので、早速キャスリーンお婆さんに教わった薬草を探してみようと思っています。 そういえば、キャスリーンお婆さんのところには、私より少し年上の娘さんがいらっしゃいます。リールといって、子供のようなひと、「神のいとし子」のようです。以前、サラは、神のいとし子は生命(いのち)弱いから気をつけていてあげないとすぐに天に召されてしまうと言いましたよね。それとも院長様でしたでしょうか。実際、パシエンスでもアガタがそうでした。雨の日、みんなが目を離したすきに外へ出てしまって、戻ってきてすぐに肺炎を起こして‥‥あんまりあっけなくて信じられず、ただ涙が止まらなかったことを覚えています。リールさんは健康そうに見えます。歌が好きで、よく歌っています。私はまだ聴いたことがありませんが、ときどき賛美歌なども歌うようです。楽しそうに過ごしているのを見ると、ほっとします。どうか彼女が恙無く日々を過ごしていかれますように。 院長様への手紙にも書きましたが、宿は「森の女神」亭で、2階の6人部屋に泊まっています。「森の女神」亭は‥‥ときどきちょっと怖いです。サラから話を聞いていたから、怖がっているだけかもしれません。でも、なんでもないようなときにちょっと怖いと思うことがあります。宿のご主人のガギーソンさんが何かをぼんやり見るようにしているときとか、ウェイトレスのマルガリータさんがお客さんに困らされているように感じるときとか、宿に入ったときにだれもこちらを見なかったようなときとか‥‥考えすぎなのでしょうか。そういえば、「森の木こり」亭という新しい宿は、ご飯が美味しいので、最近、夕飯はそちらへ食べに行くようにしています。ご主人はひげがあって、クマさんみたいな男のひとです。中の様子も静かで落ち着いていて、私は好きです。 そろそろ筆を置きます。もう明日に備えて寝なければ。でも、パシエンスよりずっと朝が遅いので毎日が楽です。最近、朝課を全然やっていません。たまにはやらないと、戻ったときに起きられなくなりそうです。早く戻りたいです。居心地悪いようなことは少しもありませんが、ときどきそちらが無性に懐かしくなります。 サラと、パシエンスの皆さまに心からの愛を送ります。 460年1月16日 セロ村にて ラクリマ 追伸: 追伸2:朝起きてみたらなくなっていました。1月17日 ラクリマ |