ラクリマ・マテリア:#03 <<Previous ■ Next>>
[shortland VIII-L03 half] ラクリマの第二の懺悔 |
主なる神よ、懺悔いたします。 私は大きな過ちを犯しました。いくら懺悔してもこの罪は消えないでしょう。それでも寛容なる主よ、もしも耳を傾けてくださるなら、私がここで告白することをお許しください。 ああ、まだ信じられません。あの恐ろしい記憶が、たった3日前のことだなんて。 あのおぞましいハイブたちに---といっても、元はダグ=リードであったり若い猟師さんであったりするのですが---仲間が次々に倒されていくのを見て、私は………私は一人で逃げました。それも何かを為すためでなく、ただ恐怖ゆえにです。 小さなアルトさんですら、彼らの前に立ちはだかろうとしたのに。 私はそのとき何もしませんでした。ただ、保身のために逃げただけ。そして最後まで、何もしませんでした。せめて情報を村の人に伝えようと自分に言い聞かせながら帰ったけれど、レスターさんのおかげで生還した仲間がその役目を立派に果たし、私の考えは本当に自分を誤魔化す言い訳でしかなかったと思い知らされただけでした。 Gさんもセリフィアさんも、決して私を責めたりなさいません。けれど、これが罪であることは明白です。 私は近々にフィルシムのパシエンス修道院へ帰るつもりです。「覚悟がなければ帰りなさい」と、ヴァイオラさんにも忠告を受けました。その通りだと思います。このままここにいても何の役にも立ちませんし、帰った方がいいように思うのです。 ただ、申し訳なかったのは、キャスリーンお婆さんに「首を突っ込む覚悟がある」などと言っておきながら、掌を返すように村を去ろうとしていることです。お婆さんには謝りに行きましたが、やはり傷つけてしまったようです。主よ、叶うものならば、罪の上に罪を重ねる私をどうかお赦しください。そしてお婆さんの傷が少しでも早く癒されますように。 この場からさらに逃げるのは、さらに罪を重ねることなのでしょうか。 本当は院長様やサラのように義(ただ)しい神官になりたかった。それは今ではもう手に届かぬ望みとなりはてたようです。私は義の人にはなれない。義人になり得たなら、どんな恐ろしい局面にも真正面から立ち向かえるでしょうに。 ああ、そして、この世界はなんと恐ろしい。ラストンの陥落も、なぜこんなときにまで人間同士で争うのか、恐ろしくて想像もできません。私には耐えられません。いったいどれだけ涙が流されねばならないのでしょう。大気が哀しみに震え、世界が涙していることに、なぜだれも気付かないのでしょう。ご加護を、神よ。どうかこの世界を見捨てたもうな。 私のような穢れた手を持つ人間が、こうしてあなたに祈ることをお赦しくださいますように。 仲間たちの上に恵みと平安を、と、口にすることすら今では憚られます。私は彼らの上に何かを祈る資格もなくしてしまったのですから。 (460年1月24日早朝) |