初老の男性の…鷹族の長…族長の重厚で威厳に満ちた声が、ガランとした空間に響き渡る。ここは、鷹族の世界たる天空の、中心地にある神殿、そのさらに中心にある大聖堂である。辺り一面が…床や壁や天井でさえも…雲で作られたその神聖な場所には今、族長と《あなた》以外誰もいなかった。
そこは、《あなた》のような幼人は通常立ち入ることの出来ない場所である。そんな場所に《あなた》はたった一人呼び出された。《あなた》が族長との対面に幾ばくか緊張した面もちでその場に立っていると、
「…人間は好きか?」
族長は唐突にそう聞いてきた。幼人とはいえ『神の眼』を持つ《あなた》にも族長の真意は測ることは出来なかった。伝わってくる気持ちは真摯で、その言葉がただ戯れの言葉とは思えない。地上を盗み見た件についての話なのだろうか? 戦慄を覚えつつ窺うような瞳で見つめていると、族長はふとその目に柔らかな光を宿した。
「なに、恐れることはない。そなたが禁を破って熱心に『地上』を見ていることは、知っておる。そのことを今更責めたてるつもりはない。学問として『人間』を学んできただけの者と実際『人間』をその目で見た者と…感じ方がどう違うのか、知りたいだけじゃ。率直な意見を述べて見よ。」
族長は、《あなた》の意見を求めている。この場に二人きりなのは、まだ他の理由がありそうだが、今は質問に答えるしかなかった。
話すことは余り得意ではない…対等に話してくれる相手がいなかったから。
《あなた》はゆっくりと口を開いた。
「…人間は、馬鹿で愚鈍、どん欲な生き物だ。それは疑いようもない事実だと思うし、いまのまま放って置けば奴らが世界に害を招くのも時間の問題…いや、もう世界にとって人間は害虫でしかないのかも知れない。でも奴らは…女神にも世界そのものにも存在を許され…愛されている。」
「…私は、人間に、ヤツらの貪欲さや粗野な素朴さに、そのエネルギーに惹かれる。奴らの魂が放つ光は、星のように綺麗では無いかも知れないけれども、やつらの灯す灯りの彩のように…太陽のように、とても温かいものだから。」
「そうか、よく解った。では、…答えはわかっているようなのもだが、あえて問う。『人間』は、ショートランドに必要だと思うか。」
「…そんなこと、私に聞いてどうするんだ? この世界に“必要”や“不必要”といって生み出された生き物などいはしない“不必要”といって生み出される子供がいないのと同じことだ、もっと小さな頃に習ったことを復唱させるつもりか。」
「その通りじゃな。イライラするでない。もう少し儂の話につき合って貰うぞ。」
族長は《あなた》の憤慨した様子に表情を変えることもなく、淡々と質問を続ける。
「では、獣人のことは好きか。」
《あなた》の心の中に12種の獣人の姿が浮かぶ。自分と同じ鷹族。そして、人間社会に混じることなく暮らしている海豹族。人間社会に混じって暮らす四大種族。人間世界からはじき出されてひっそりと暮らす猪、蝙蝠、狐族。既に滅んでしまった他の種族。そんなことを聞いてどうするのか、とは思いつつも質問に答えていく《あなた》。
「彼奴らも…私達を含め馬鹿者揃いなのだと思う。結局女神の望みを知りながら何かを成し遂げた奴らなどいないのだから。ただ、それはたとえば迷路に填っているようなモノで…真っ直ぐな道ではないからだろう?時間をかけて多くのモノが失われてしまったけれど、立ち止まりさえしなければ行きたい道を見付けることが出来るはず。諦めたらそこで全てが終わる…どの種族も…我々もな。
それぞれが必至に足掻いて藻掻く様は崇高だと思う、だから私は獣人達が…好き
だ。」
その時《あなた》の心の中で思った『獣人』に《あなた》自身は含まれていなかった。
《あなた》は自分が…少なくとも好きではない。
「では、獣人族もこのショートランドにとって必要だと、そう思っているのだな。」
「当たり前だ。」
「では、そなたはこのショートランドは好きか。」
「大好きだ。」
「では、最後の問いじゃ。この世界の為に『人間』か『獣人』どちらか一方を選ばなければならないとしたら、そなたならどちらを選ぶ。」
…どちらを?
《あなた》にとってそれは今までの問いの中で一番実感のわかないものだった。
どちらも女神の生み出した愛し子だ。
どちらかを選ばなければいけない、なんてそんなことがあり得るのか?
それでもどちらかと問うのならば。
「どちらも、だ。どうしても『選ばなければならない』のなら、要らないのは何よりも選者である『私』だな。それで両方とも選ばれぬことなく暮らせるなら。」
「ふむふむ。そなたらしい返答じゃの。ではここで一つ、誰も知らない獣人族の現状について話そうかの。」
族長は、姿勢を直し語り始めた。
どうやら長い話になるようだ。
「そなたも知っての通り、我ら鷹族で幼人なのは既にそなただけで…ここ十何年子供は一人も産まれては居らぬ。これは何も我ら鷹族だけに限ったことではなく獣人族全てに共通する現象じゃ。始まりは今から25年前、獣人族の四大聖宝、『聖杯(カップ)』、『剣(ソード)』、『杖(ワンド)』、『金貨(コイン)』がショートランドから失われたことによる。
時を同じくして世界から『地』、『水』、『火』、『風』の四大精霊もが失われ、獣人族は『聖宝』という直接の力と、『精霊』という後ろ盾を同時に失ったのだ。これは、人間族が俗に言う『魔力の減退期』というものにあたる。
獣人は、自分達で思っている以上に『精霊』の影響を受けている。『精霊』力の減少は、魔力の減少につながる。そして魔力の減少は、すなわち我々獣人の生命力の減少につながるのじゃ。
その後、我々獣人の出生率が減少したのはそなたも習った通り。元々出生率の低い獣人にとってさらなる出生率の減少は、一族の存亡に関わる。実際、種族単位ではないにしても滅んだ部族は少なくない。
さて、人間族の発表ではその後、今から12年前に『魔力の減退期』を脱したことになっておる。しかし実際は…いや、正確には、ほんの一時だけじゃが、確かに脱し
た…が、人間族…正確にはたった一人の人間の男が、その戻った魔力を全て使ってし
まった。
それ以来、世界の魔力は枯渇しているのじゃ。
その源たる四大精霊が世界に居ないのじゃから、そうそう世界の魔力が回復する訳もない。結果、獣人族にはこの12年間一人として子供が産まれてはいない。
どの種族にもじゃ。
この12年間で、海豹族は、女神の言葉を伝える『口』を失い、狐族は、女神の言葉を聞く『耳』を失った。蝙蝠族は、『商い』をする術を失い、猪族は、『農耕』の術を失った。
これが獣人族がそれぞれの力を失った背景じゃ。そして我ら鷹族も、女神の代行者たる真の『神の眼』を失おうとしている。
そして来年。26年振りに四大精霊がショートランドに戻られる。やっと魔力が回復し始めるのじゃ。
そして時を待っていたかのように、女神から神託が下された。『世界に住まうものを決める『審判』の時が来た。成人の儀式をもって、その決定とする。』と。
この12年間、獣人族は力を失いすぎた。そして人間族は、世界を汚しすぎた。今度こそ、生まれてくる魔力を正しき方向に使わねば、世界そのものが滅んでしまいかねない。
我らの同胞には思うところが沢山ある者も多いじゃろう。しかし、我らは…いや、そなたは、女神の代行者として、更正で正しい判断をしなければならぬ。『審判』の時はすぐそこまで来ているのだ。
そなたは、実際に地上に降りて、その目で見て、触れて、想い、感じて来るが良い。そなたの想い、感情、経験、全てが『審判』の礎となるであろう。『審判』に正解など無いのじゃ。そなたの導き出したる答えが、正解となる。どのような答えでも我々鷹族はその決定に従う。もし例えそなたが答えを導き出せなかったとしても、…それはとても悲しいことであるが、それがそなたの導き出したる答えだと思おう。」
《あなた》は言葉もなかった。
答えを導き出さない…つまり『つがい』となるものを選ばないということか…と理解はした。『つがい』の相手に通常通り女神を選べば『人間』が滅び、人間を選べば『獣人』が滅ぶ。どちらも選ばずに自分が滅べば『世界』も滅ぶ。族長は直接口にしなかったが、そう言う図式が《あなた》の心の中に伝えられた。
この場に族長と自分一人しか居ない理由がよく解った。確かに、こんなことを他の者に知られるわけにはいかないだろう。このことを知っているのは、きっと族長と神託を受けた巫女の二人だけに違いない。
だが、だからといって…それがどうしたというのだ。
そしてそれが何故…
《あなた》はやっとの事で口を開いた。最後の方は悲鳴にも似た叫び声になっていた。
「…なんだそりゃあ!? そんなこと勝手に決めるな! 滅ぶのも頑張るのも自分たちのことは自分で決めればいいじゃないか! 他者に…私に選択を依存するな…大体なんで私なんだ! 女神様はそんなに私が嫌いかぁ!!」
《あなた》は女神に愛されていないと、常日頃からそう感じていた。
色素のない白い肢体、赤い眼、他の鷹族の者達に比べてひ弱で小さな躯。
他の鷹族達に《あなた》は密かに疎まれていた…族長と数人の仲間を除いてだが…。それはハッキリと感じ取れていた事だ。ただ、表だってそれを伝えてくるような者はいない…それが《あなた》にとってなにより辛いことだった。
「そなたは女神に愛されておる。そなたの『白』は、神の寵愛を意味するものだ。それに『成人の儀式』を受けていない者は、もう既にそなただけ。…女神の寵愛を受けし者が『審判』を下す。エオリス様はまさにこの時を選ばれたに違いない。少なくとも儂は…そう思っておる。」
「いい加減なこと言いやがって…! ヒトの純情なんだと思ってるんだぁッ!!」
「見ているだけではなく、触れて、感じてくるが良い。その純情とやらがホンモノかどうか。それも『審判』の大切な糧となるであろう。」
「ぐはぁ…」
族長のささやかに意地悪い言葉に《あなた》はぐうの音も出なくなった。
「『審判』の時は、四年後の鷹の月と言われている。そのころには、そなたも『成人の儀式』を行うに充分なひとかどの強さを得ているであろう。もしかしたらそれよりも早く、成長してしまうかもしれぬ。三年後の夏の終わりぐらいには…」
と、ここで一呼吸置いた。
…思えばそれが族長の、最後の決断に対する『躊躇い』だったのかも知れない…
「では、行って来るが良い。」
《あなた》の足下の雲、つまり床が、晴れた…
《あなた》は、あの人の待つ『地上』に降り…落ちていった。
頭が、ズキズキと鈍く…時に酷く痛んだ。
前髪が額といわず頬といわず固まった血液で張り付いて前がよく見えない。
頭上に光を感じて《あなた》は頭を上げる。
目の前に誰かが霞んで見え…た。
白い翼が広がっている…自分たち鷹とは明らかに形の違う柔らかな曲線を描く翼。
そして黒い…長い…髪と、光を帯びた緑色の瞳。
「エオ…リ…ス…な…ぜ…?」
次に《あなた》が目を覚ました時、《あなた》には自分の名前すら思い出せなかった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
彼の激しい感情の波動が、貴女の心に流れ込む…
…死んでしまいたい…
何も考えずに、旅の途中で、知られることなく死ぬことが出来たのなら、どんなに楽だっただろうか。
あっし…いや俺は、一体何処で道を間違えてしまったんだろう。トール、昔の約束を守れなくてごめんな。シャバク、まだ若いお前の未来を摘み取ってしまってすまん。
そしてあね姉さん。今まで有り難うございました。もし、姐さんと先に出会っていたら、俺の道も違っていたでしょう。姐さん、今日俺は、姐さんを裏切らせていただきます。
あの人は、恐い人。
あっしが、必至に隠しているこの気持ちを全て見透かされそうで。あの人の前では全て をさらけ出しそうで、恐い。
全てをさらけ出した時が、この幸せな一時の終わりを告げるときだから。
あっしの大切な人。あっしのことを初めて信頼してくれた人。
心優しい人、強い人。
裏切ってはならない人。裏切らなければならない人。
苦しいこの心の内を、決して知られてはならない人。
知られたときこそが、オワリの時だから。
アッシの心に言葉を掛けられれば、きっとあっしは、心が挫けるから。
すまないと思っている。
大切な人を失うの辛さは、良く知っているはずなのに。
それを知っていながら、何もしてやれなかった。
選んではいけない答えを選んでしまうであろう事を知っていたけれど、どうすることもできなかった。
でも、そのことを許してほしいとは思わない。自分のことを大切に思うエゴは誰でも持ち合わせているものだから。ジブンガタイセツダッタカラ。
でも、俺は願っている。
どうかその心を闇に捕らえられる事の無いように、と。
心を闇にとざすのは、負けだから。
弱き人間のすることだから、自分のように…
どうかあの人を頼みます。
もっと、もっと強くなってほしいヤツ。
何事にも挫けない、本当の強さを持ってほしい。
守るという事の本当の意味を知ってほしい。
そしてそれを成し遂げてほしい。
自分にはそれが出来なかったから…
危なっかしい存在。壊してしまいそうで、でも壊してはならない存在。
真っ直ぐに、真っ直ぐに育ってほしい。
強さを、暖かさを、守る力を手に入れて、人々を導いてほしい。
正しき道に。幸せを感じることの出来る世界に。
よく解らない人。
魔術師は理解に苦しむ。
でも、自分と向き合える強さを持った人で良かった。
これ以上あの人を困らせたくはなかったから。
A......(アラファナ)
恐ろしい人。あの人には生気がない。
あの人は、死を感じない。だから恐ろしい。
あの人の心の闇を見通すことが出来ない。
まるで虚空のような広い闇。
見てはならない。触れてはならない。
自分が壊れるから。
F......(ファザード)
アッシの人生の悪しき起点となった人。
さすがに実行隊長だけあって、力量は称賛に値する。
その性格も。
でもそれだけの人。
F......(ファーカー)
アッシの人生に血と闘争と闇を持ち込んだヤツ。
いずれケリをつけなければならない相手。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
贅沢だと言われたこともある。
くだらない拘りだと揶揄されたこともある。
でも。それでも。
僕は『特別』になりたかった。
僕は生まれた時から代用品だった。
正確には代用品にさえなれなかったのだが。
僕の生まれた家は神聖ガラナークでも有数の貴族アンプールの家。
アンプールでは代々女尊男卑が叫ばれており、家督を継ぐのも要職にあるのは全て女性だ。この家で僕やルード兄様の存在などさして重要ではない。
この家での15年はそれを嫌というほど思い知らせてくれた。
姉様の周囲にはいつも人だかり。
優秀な教師がつき、何れは国政に携わる者として姉様は磨き上げられていく。
僕たちはいつもそれを遠目で眺めているだけだった。
悔しかった。
だから努力した。
僕はここにいるのだと、認めてほしかった。
けれども。
どれほど武術の腕を上げようとも。
どれほど知識を収めようとも。
いかなる努力も認められることは無かった。
一度も顧みられることは無かった。
思い知った。
罵倒されるより、嘲笑われるより辛いのは無視されることなのだと。
思いつめて母様に聞いたことがあった。
僕は一体何の為に生まれてきたのですか、と
母様は言った。
シャルレインの代わりがほしかった。なのに男だったなんてね、と。
そう言いきる母様には少しもてらいがなかった。
そして僕は。
期待することを放棄した。
時が経ち、兄様は騎士の道を選んだ。
功を立てさえすれば一代かぎりのものとはいえ爵位も領地も授かることが出来る。
このままここで冷や飯食らいで終わりたくはない、兄様はそう言った。
でも僕は違った。
神官の道を選んだ。
戦士となるに何が不足していたわけじゃない。むしろ僕は戦士としての才能に恵まれていた方だろう。でも僕は神官になりたかった。
ここが神聖ガラナーク王国だったから。
格式の高い行事には必ず神官が必要とされる。
国王に王冠を授けるのは大司教の役割だ。
神聖ガラナークでは宗教と政治とはすでに不可分となっている。
大神殿はエオリス正教の総本山であると同時に神聖ガラナークの政治の中枢でもあるのだ。
その大司教ともなればどれほどの発言力をもつことか。
だから僕は神官の道を選んだ。
血筋ではなく、自らの実力を証明するために。
そして、僕の願いはかなえられた。
神は僕だけに「神託」を授けてくださったのだ。
誰もが信じようとしなかった。
そして嗤った。
世迷言だと決めてかかった。
馬鹿な連中だと心の底から思った。
事実を認められない愚か者達を哀れんだ。
自分が神の声を聞けないからといって何故、僕を君達と一緒だと考えるのだ?
何故僕が、君達と「同じ」でなければならない?
よしてくれ。
僕は君達なんかとは違う。
母なるエオリスに選ばれたんだ。
僕は『特別』な存在なんだ。
だから僕の言葉に耳を傾けろ、お前達。
僕に託された神の言葉を。
----「私」に授けられた神の御意志を。
大司教に呼び出された僕は、そこで僕に授けられた「神託」が正式に認められた、という話を聞かされた。
別段、感慨は無かった。緊張も。
それは単なる事実でしかなかったのだから。
だが、続く言葉を聞いた時僕は少し呆れていた。
大司教の言葉を要約すれば、「神託」だと認めてやるからその事実を確かめて来い、といううこと。
大司教ともあろう方が迂遠な事だ。
----いいですとも。証明して差し上げましょう。
僕が----「私」が間違いなく神の意思を体現して差し上げましょう。
「私」----レスタト=エンドーヴァーが。
一癖も二癖もある道連れを従えてセロ村まできた「私」を出迎えたのは。
怪我をして地面に倒れ伏す白い少女だった。
脳裏に浮かび上がる。
----翼をもがれた天使が、大空を飛ぶことを忘れ大地に横たわる----
彼女の存在こそが「神託」の正しさを示す何よりの証ではないか!
----ああ、母なるエオリスよ、御照覧あれ!!
貴方の下僕はまさに今、貴方の意思を体現せしめようとしております!!
「私」はこの時、自らの将来に待つ栄光を確信していた----
しかし、現実は、冷たかった。
何故この「私」がこのような目に----!
原因は分かっている。
侮りがあったのだ。
今回の冒険の目的が猟師を救いに戻るというものだったから。
時折遭遇する怪物を容易く屠っていたことで。
ハイブという敵を侮っていた。
ハイブブルードになる前の幼生体ブルードリングを倒したことでいい気になっていた。
あの戦いで神託の天使----Gが命を落としたという事実も忘れて。
そして、何より。
物語の主人公である自分が死ぬはずはない、とそう盲目的に信じ込んでいた。
----そのツケがこれだった。
今や「私」は----僕はハイブの苗床にされようとしている。
この僕が!
神に選ばれたこの僕が!
ショートランドを救う未来の英雄たるこの僕が!!
神よ、何故です!
何故僕がこのような目に遭っているのです!
僕が神の意思に反した行いをしたのでしょうか?
獣人を許容したことですか?
あの異端者に目を瞑ったことですか?
それとも僕が貴方の意思に適わないとでも
----深呼吸を、一つ。
冷静になれ。考えろ。このままじゃ駄目だ。
このままじゃ本当に僕は、僕達は----
----僕達?
そうだ、ここには他の仲間もいる。
何より僕の天使----Gがいる!
救わなければ、救わなければ!
だが、どうやって?
ここは既に奴らの巣の中。
この体は未だに言うことを聞かない。
ヴァイオラやアルト、ロッツの死体がどこに運び込まれたのかも分からない。
こんな状況で打つ手なんて----
----いや、ある。
たった一つだけ手はある。
だが、
でも、あれは。
しかし、このままでは間違いなく、僕たちは死ぬ。
無駄に死ぬ。
意味もなく死ぬ。
誰にも知られず、誰が知ることもなく。
誰に顧みられることもなく----惨めに。
させない。
そんなことは。
この僕がさせない。
させてたまるかぁ!
いいだろう。
どうせこのままじゃ死んじまうんだ。やってやろうじゃないか。
僕にとって本当に怖いのは死ぬことなんかじゃない。
僕にとって本当に怖いのは。
僕にとって本当に怖いのは、僕という存在が無意味で終わることなのだから!
さぁ、忌まわしき足手纏い達よ! 僕にとって初めてのと----仲間たちよ!
貴様らがどう思おうと知ったことか!
お前達に「祝福」という名の「呪い」を授けてやろう!
全ては僕達が弱かったことに起因するんだ、自分の無力さを怨むんだな!
何も出来ない無力なお前達に僕の「覚悟」を教えてやる!
「----ああ、母なるエオリスよ。汝が下僕の言葉を聞き届けたまえ----」
ああ、Gよ! 愛しくも憎らしい我が天使よ!
その胸に刻むがいい、お前の為に命を落とした者がいるということを!
そう、僕が死ぬのは他の誰でもない----君を救う為なんだということを!
「----我が祈りを聞き届けたまえ----」
何だ、今になって僕は何を震えている。
「----我は今ここに願い奉る----」
決めたんだろう? なら、
「----我が命を、魂を、我が全てを捧げ願い奉る----」
今更迷うな! 「レスタト=エンドーヴァー」!!
「----癒したまえ。救いたまえ。我が同胞たる彼の者達を。
----運びたまえ。導きたまえ。彼の者達を安息の場所へと。
----損なわれることのないよう、喪われることのないよう。
----彼の者達に汝が祝福を与えたまえ。
----彼の者達に汝が奇跡を授けたまえ。
----我が願いを、どうか聞き届けたまえ!!」
でも僕だって、本当は……
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