かっと顔が火照った。
どうしてだかわからない。
胸も、なんだかもぞもぞして気持ち悪かった。
---のぼせかしら?
更年期障害には早すぎると思うのだけれど。
「ごっ、ごめんなさい…!」
思わず手で手を握った。少し汗ばんでいる。
---でも熱はないみたい。
それはそれで変な気がした。だってどこかに熱があるはず。この身体のどこかに。
なんだろう、この気持ち。とても収まりが悪い。
知らない。わからない。ただ、
---目を見るのがこわい。
迷惑なことをしてしまったんじゃないだろうか。何か、よくないように思われなかっただろうか。
そうして恐れながら、見ずにはいられなかった。
そのひとが笑うのが目に入った。
満面の笑み。
花が開くように。
木々が若き緑の葉を広げるように。
ああ、なんてまばゆい。まぶしさで目が潰れぬよう、私は隠れてそっと見ていたい。水面に映る木々の、そのまた葉陰に身をひそめて。
胸の、粟立ちがおさまっていく。さざなみのように、清涼な安堵感が徐々に内部を浸していって……脈絡なく思い浮かべた。
---このひとの手……。
大きくて、少し荒れて、ごつごつしている、でもやさしい手。------院長さまのような。
なぜだろう。その手を想うだけで、不思議な気持ちになるのは。水のように穏やかで、けれど微かにかゆさが残るような……くすぐったいような気持ち。
やさしい手をしたやさしいひと。このひとのそばにいると、世界もあまりこわくない。
「行こうか」
誘(いざな)われて、彼女も彼に笑顔を向けた。頬に桜の彩りを残したまま。
頬を染める。それが初めてのことだったと、彼女自身は知らない。
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