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tealdice [shortland VIII-L00 half] tealdice ラクリマの第一の懺悔 tealdice

主なる神よ、懺悔いたします。

 私は今日、ひとを傷つけてしまいました。

 事の起こりは、寝る前に食堂で私がセリフィアさんに「ファーストネームを教えてください」と頼んだことでした。

 悪気はなかったのです。セリフィアは女性名ですし、セリフィアさんは男性ですから、きっとお母様かお祖母様のお名前をミドルネームにいただいているのだと思ったのです。修道院で一緒だったヨハネが、お母さんの名前のイニシャルをミドルネームに持っていて、それと同じだと思ったのです。彼が名前のことで心に傷を負っていようとは、そのときの私には思いも寄らないことでした。

 私の質問とほとんど同時にヴァイオラさんが「呼びにくいからセーラって呼んでいいか?」とたずねられていました。

 セリフィアさんは幾分震えながら「セーラはやめてください」と言ったあとで私をふり向いて「セリフィアがファーストネームじゃいけませんかっ」とおっしゃいました。それで私はつい‥‥ああ、なんてあさはかなんでしょう、私はつい、「でもセリフィアって女性の名前ですよね?」と聞き返してしまったのです。

 その途端にセリフィアさんは怒鳴り出しました。

「しょうがないでしょう!親がつけた名前なんだから! 女の子の名前だろうがなんだろうが俺の名前はセリフィアなんだ! 俺は男なんだよっ!!」

 なおも運の悪いことに、これと前後して会話を聞きつけた村の人が振り向いて近づいてきて、「セーラ? ‥なんだ、男か」と呟いたのです。セリフィアさんは「男の名前でいけないのかよっ!」と叫ぶなり彼に襲いかかりました。そして「俺だって、好き好んでこの名前になったわけじゃないんだ! お前に何がわかるっていうんだっ!」と、喚きながら何度も何度も殴りつけました。慌ててレスターさんが止めに入りましたが、戦士である彼を止めるのは容易ではありませんでした。

 あのとき、Gさんが突然セリフィアさんに抱きついてくださらなければ、セリフィアさんはあの人を死ぬまで殴っていたかもしれません。私にはよくわからなかったのですが、Gさんが「男の子ですよ、ちゃんと」と保証したせいか、セリフィアさんは真っ赤になって殴るのをやめました。でもそのときにはあの人は---ジェイ=リードさんとおっしゃるのだと、あとでお聞きしました---全身、傷だらけでした。私はこわくて、哀しくて、泣きながらその人に回復の呪文を唱えましたが‥‥それすらいけないことだとは知らなかったのです。

 結局、騒ぎを起こした罰として、私たちは争乱税を支払い、さらにセリフィアさんは強制労働に従事させられることになりました。さきにディライト兄弟と名乗る方から依頼されたカートの捜索がどうなるのか、すでにしてわかりません。ゴードンさんが機転を効かせて「カート探索を強制労働の代わりにしてほしい」と掛け合ってくださったそうですが、まだその是非は決していないようです。

 主よ、私の不用意な言動が、セリフィアさんの心を傷つけ、ジェイ=リードさんの肉体を傷つけたことを懺悔いたします。どうか私の罪をお許しください。この騒ぎの原因を作り、騒ぎを起こしたことによってレスターさんには代価を支払わせてしまいました。また、神殿で禁じられていること---呪文を軽々に使ってはならないという約束事をも破ってしまいました。なにとぞ未熟者の私をお許しください。

 そして何より‥‥主よ、お許しください。私は恐怖を抱かずにはいられずにおります。セリフィアさんが怖いのです。こう思うことが罪だとしても、どうしてもこの気持ちを抑えることができません。セリフィアさんはちゃんとみんなに謝り、私にも丁寧に謝ってくださいました。それなのに私はセリフィアさんが怖い。これはやはり私に勇気がないせいなのでしょうか。主よ、どうか私に勇気をお与えください。明日からの行動において、彼を傷つけずに振る舞えるよう。彼とも普通に話せますように。

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 主よ、他人を怖いなどと思い、零れてしまうこの涙を、どうかお許しください。