今すぐ走って帰りたい
この場から逃げ出してしまいたい
子どものように
あの頃にかえって
彼が膝の上に抱き上げてくれるのを待つ
大丈夫だ、と、抱きしめてもらえれば
きっとこの邪念もなくせるはず
でも今、目の前に彼はいない
そしてこんな甘えが許されるはずもない
「大丈夫か」
声がして肩に手がかかる
大丈夫ですと笑顔でこたえながら
このひとのやさしい手さえ今は振り払いたいと思う
手をどけて 私に触れないで
そんな聞きたい顔をして見ないで
知られればあなたと共に行けなくなるというのに
彼らが悪いわけじゃない
何の責任があるわけでもない
けれど
アルトの現在を生み出したのは
アラファナの今を生み出したのは
元はといえば───
なのに隣人として愛せというのか
知らぬげに受け入れてみせる、それだけのことで
だれか私を彼の元へ運んで
彼は私の小さき神
それでも世界は美しい、と
あのひとがやさしい声で語るのを聞きたい
それでもヒトは義(ただ)しい方へ進める、と
あのひとが理を説く姿を目にしたい
謐(しず)かに
炎のように
そうしたらもう一度信じられる
きっとやさしい気持ちを取り戻せる
この
身を喰うような思い
暗闇
邪(よこしま)
気違い沙汰の理不尽に呑まれた胸中から
今すぐ消し去ることができるだろうに
念(おも)ってはならないこの思いを
人間なんて───。
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