主なる神よ、懺悔いたします。
私は人を殺しました。
いいえ、これまでにだれも何も殺めなかったと、申しあげるつもりではありません。
ただ、私は、彼女の本当の望みを聞きとるより前にその命を絶ってしまった。ある意味でそれは、直接に武力で人を死に至らしめるよりもずっと、罪深い殺人を冒したことになるように思えて、懼れ、告白するのです。
彼女---エドウィナは、私たちと敵対するユートピア教の幹部でした。まだ私の年齢にも届かぬはずなのに、彼女はすでに「力」を行使する術を知り、よりいっそう強大な「力」を求めているようでした。セルレリアさんという綺麗な女性を殺害し、その罪をセリフィアさんになすりつけようとしたのも彼女………彼女は、己の欲するがままに振舞っているように見えました。
お兄さんのことも、彼女は「弱いから死んだ」「恋に目がくらんで力を手放したから破滅した」かのように、私たちの前で嘲ってみせました。
ですが、主よ、私には、本当は彼女がお兄さんを救いたかったのではないかと思えてなりません。「兄を助けてください」と頼んできたとき、確かに彼女は私たちを陥れるつもりだったかもしれない。でも、本心では、私たちがお兄さんを救い出すことを願っていたのではないか、と。だから、私たちを襲ったのも、ユートピア教の指図なんかではなく、お兄さんを助けなかったことへの怨みによったのではないか、と。
あのとき……
あの戦闘が終わったとき、エドウィナに意識はありませんでしたが、命の灯火はまだ残っていました。私が治癒呪文を唱えれば、彼女は意識を取り戻したでしょう。
けれど私は呪文をかけなかった。
私は迷いました。
意識を取り戻させても、いずれ彼女は殺さねばならない。ならば起こして死の苦痛を再び味わわせるよりも、このまま止めを刺してあげたほうが親切なのではないかと、そう思ったのです。
だから目覚めさせなかった。
遺言も聞かずに命を絶った。
彼女の、彼女自身の本当の望みが何であるかを語らせないまま。
それが正しいと、そのときは思っていました。
けれど、今思えば私は、彼女が苦痛を浴びるさまを見ることで、自分が傷つくことを恐れ、そのゆえに目覚めさせなかっただけなのかもしれない。
その判断が傲慢であるなんて、考えもしなかったけれど、彼女にとって死の苦痛が耐えがたいだろうなどとは、彼女を見くびることでしかなかったのかもしれない。
語られざる思いを石のように抱えたまま朽ちてゆく、それこそが何より耐えがたい不幸であったかもしれないということに、あのときは考えが至らなかったのです。
主よ、彼女はまだ十数年しか生きていなかったのです。生きて、死んだ、その存在の証として、彼女に一体何が残せたでしょう。
だから私は、本当は聞くべきだったのではないかと、後悔しています。彼女の、死の間際の声---彼女の、心からの言葉を、証として。
もしかしたら、今際の際であっても彼女は私を相手にせず、語ってはくれなかったかもしれません。それでも、最後まで聞き取ろうとする努力を怠るべきではなかった。
私は二重に彼女を殺してしまったのかもしれない。
肉体だけでなく、語る場を与えなかったことで、その魂の場所まで簒奪したのかもしれない。
もしも今からでも叶うならば、彼女の魂の声に耳を傾けたい。ユートピア教も、この世のしがらみも何もかもが切り離された今、「あなた自身の望みは」と問うたなら、彼女は何と答えるでしょうか。
私は、私の祈りが、聞き入れられる価値のないものであると知っています。
それでもお祈りいたします。どうか私にもっと分別が備わりますように。愚かさから生まれたこの罪が清められる日がきますように。
そして主よ、御神よ、どうか憐れみをもって、死者の霊魂を底なき深淵から救い出し、死から生命へと移したまえ。アーメン。
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