生徒 ハイブって、「ハイブ」が正式名称なんですか?
先生 そうとも言えるしそうではないとも言えます。というのは彼らの本質が---
生徒 先生、本質の話はあとでいいです(汗)。ハイブって、何かの略称なんですか?
先生 そうですねぇ、一般に「ハイブ」と言うときには「ハイブブルード」を指すことが多いようです。
生徒 ハイブブルード?
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ハイブブルード
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先生 ハイブブルードは、ハイブ社会の中でもっとも数の多い構成員です。働きバチみたいなものだと考えておけばいいでしょう。
生徒 働きバチですか。じゃあ食べ物を取りに行ったりするんですか?
先生 まさにその通りですね(溜息)。餌も取りに行きますが、同時に新たな「宿主」も捕獲しに行きます。
生徒 「宿主」?
先生 先ほど「寄生する」って言ったでしょう。寄生虫なんかが宿って食い物にする生命体のことを「宿主」と言うのですよ。ハイブの宿主はたいがいヒューマノイドモンスターです。
生徒 じゃあ人間も……
先生 ヒューマノイドモンスターの中で一番数が多いのは人間です。鋭い牙も爪も速い足も聡い耳も、およそ身を守る能力はほとんど退化している種族ですし、人間が一番のターゲットになると言って過言ではないでしょう。ハイブブルードたちは人間を襲い、捕獲して新たな宿主にしてしまいます。襲ったときに運悪く宿主候補が死亡した場合は、素直に餌として持ち帰ります。
生徒 うええええ……その、宿主ってその場でハイブブルードになっちゃうんですか?
先生 それはさすがに無理です。宿主は巣に連れ帰ってから、ブルードマザーの産んだブルードリングを植え付けられます。その段階を経てのちに、ハイブブルードとなり、他のハイブブルードと一緒に「巣 hive 」の保全に励むようになるわけです。食料調達、宿主捕獲、そして外敵の排除など、ね。
生徒 なんかもう聞きたくない気がしますけど、一応教えてください(汗)。今、話に出てきたブルードリングって何ですか?
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ブルードリング
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先生 ブルードリングは幼虫です。いや、幼体かな。私も実物を見たことがないのでわかりません。
生徒 いいです、幼虫でも幼体でも別に見なくて…。
先生 冒険譚で「ブルードリングが現れた!」というような場合、それは「ブルードリングに寄生され同化した宿主が現れた」ということと同義です。ええと、実際に見たわけじゃないのでわかりませんが、宿主の腹部などから入っていくんですかねぇ、柔らかいですから。それとも鼻腔や耳なんかの穴からかな……
生徒 だから見なくていいですって(汗)。
先生 どういう形で宿主の中に入れられるのかはわかりませんが、ブルードリングは中に入ると、自分自身を宿主に適応させ同化させます。
生徒 拒否反応とか出ないんですか?
先生 聞いたことがありませんねぇ。進化の過程で巧妙に細胞核をだまくらかす方法を手に入れたんでしょう、きっと。まぁ、とにかくそうやって1日経つと、宿主とブルードリングは意志ならびに目的において単一のものになると言われています。
生徒 ???
先生 ぶっちゃけた話、宿主にはまだほんの少しだけ以前の意識というか記憶というか「宿主らしさ」が残っているんですが、この時点ではもうすっかりブルードリングに操られてしまうということです。仮令(たとえ)自分の息子が相手でも、ブルードリングとして必ず攻撃してしまうような。
生徒 いやですね。
先生 この1日の間に、宿主とブルードリングの代謝作用にはさまざまな変化が起こります。目に見える変化は、宿主の膚がキチン質になり、目には薄い膜ができることです。
生徒 チキン質?
先生 「鶏 chicken 」じゃありません、「キチン chitin 」です。
生徒 聞いたことありません。
先生 しょうがないですね。キチンというのはアミノ糖の一種です。無脊椎動物、特に節足動物のかたい表皮や殻の骨格中に含まれたり、菌類・細菌類の細胞壁の重要な構成要素となったりしています。N-アセチル-D-グルコサミンの重合体で、ふつうはタンパク質などと結合し、さらにポリフェノールが結合したりカルシウム塩が沈着したりします。
生徒 先生、専門的すぎてわかりません(汗)。で、「キチン質」ってなんですか。
先生 昆虫の外殻の様子をそう言います。まぁ、この場合、化学的にはキチンのみではなく、キノン硬化タンパク質などが含まれるわけなのですが…
生徒 要するに膚が昆虫みたいに硬くなるんですね。アリの表皮みたいに。
先生 何しろ昆虫ですからね。
生徒 (説明が長すぎるよ…)
先生 とにかく、この時点で宿主は硬くなって、動き方も昆虫に近くなります。重要なのは、ここからすでに巣の一員として一緒に働き出すということです。
生徒 たった1日で!?
先生 そうです。だから言ったでしょう、「生殖よりはるかに速い」って。
生徒 もう絶対に元には戻らないんですか、そのひと?
先生 実は、ブルードリングの状態であれば助けることができます。キュアディジーズかキュアオールの呪文をかけると、寄生しているブルードリングだけを殺すことができるからです。
生徒 わあい!
先生 ただし、ブルードリングは死にますが、元・宿主が身体に悪影響を受けてしまうのは免れられません。ブルードリングによって代謝作用を変更させられたせいで元・宿主は、D&D風に言うなら、教養・知恵・敏捷・魅力のそれぞれの能力値に1D6のマイナスがついてしまいます。
生徒 カンペキに元には戻らないってことですね…(涙)。
先生 でもいいこともあるんですよ。膚がキチン質になったおかげで、アーマークラスの値が以前より1つ良くなるんです。
生徒 そんなヘンテコな膚はイヤです〜(涙)。
先生 まぁ、でも完全にハイブ化するよりはマシでは。宿主と同化してから数日経つと、ブルードリングは5〜8時間の間、休眠状態に入ります。この間、外側の皮膚を落として完全なハイブブルードに成長します。ハイブブルードになってしまうと、元の宿主らしさは一切合財失われます。精神もそうですが、肉体的な能力や特性も、ほとんどの場合はなくなってしまいます。そして一人前の働きバチとして巣のために労働し始めるわけです。
生徒 肉体的な特性って何ですか?
先生 たとえば、泣きぼくろがあるとか、中指が人差し指より短いとか、そういうことです。
生徒 本当に全部なくなっちゃうんですか?
先生 たまに元の宿主の癖や生活リズムが残ったりするようですが、それも他との共同生活に支障を来さず、没個性の範囲を脱しない程度に留まります。
生徒 は〜…。あれ? そうすると、獣人みたいに「変身」するヒューマノイドに寄生した場合はどうなるんですか? 「変身」できなくなるんですか?
先生 ああ、その問題がありましたね。ハイブブルードになってしまえば、宿主の元の能力は失われますから、「変身」できません。でもブルードリングのうちは「変身」可能です。オオカミ人間に寄生していたら、オオカミに変身したときの能力を使えます。
生徒 う〜ん、ブルードリングだからって、弱いとは限らないんですね。ところで、ハイブの増え方はわかりましたけど、元のブルードリングはどうやって増えるんですか?
先生 それはブルードマザーが生み出すんですね。
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ブルードマザー
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先生 ブルードマザーは、女王バチのようなものです。子供を産むためだけに存在します。
生徒 本当に蜂みたい…
先生 ああ、そうそう、実際にマザーがやることは出産だけですが、マザーにはとても重要な仕事があります。それは「子供たち」の「献身の対象」となることです。
生徒 「子供たち」って……
先生 ハイブブルードやブルードリング、それからまだ話していませんが、ハイブリーダー、ハイブマインドなどの巣の構成員たちのことです。マザーはこれらの構成員すべてから「熱狂的な」献身を受け、養われ守られます。
生徒 「女王サマ」ってやつですね。
先生 ただ、この女王様はハイブブルードたちのように動き回ることができません。
生徒 はぁ? 歩けないんですか?
先生 そうらしいですね。マザーは子供たちに較べて非常に体が大きいようです。しかしまぁ、「動けない」というのはサイズのせいというよりは、「出産」に特化された体を持つせいでしょう。少しは動けるのでしょうが、足なんかもう退化してるんじゃないですかね。先ほども言いましたが、マザー自体は「出産」以外ほとんど何もしないし何もできないのです。自分で餌を取りに行くこともできないはずです。構成員が運ぶ餌で生きながらえて、あとはひたすらブルードリングを産むだけですね。
生徒 いやな人生……。そういえばハイブ…? なんでしたっけ? ハイブブルードとブルードリングの他にも何かいるんですか?
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ハイブリーダー
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先生 ハイブブルード、ブルードリング、ブルードマザーと説明しましたが、あと2種類の構成員がいます。そのうちの一つは、ハイブリーダーです。
生徒 「リーダー」とつくからにはやっぱりリーダー…?
先生 そうです。ハイブリーダーはハイブブルード、つまり働きバチのリーダーに当たります。彼らはハイブブルードやブルードリングたちに「命令」を与えることができます。
生徒 ムシのくせになまいき〜(涙)。
先生 「命令」の与え方は、ニオイの放射によってなされると言われています。が、ニオイの物質を実際に有効数以上サンプリングして分析した学者がいないようなので、絶対にそうとは言い切れません。
生徒 (ニオイのサンプルを手にしたときには死んでるって、学者なんか…)
先生 言葉や音といった手段でないことははっきりしていますので、ニオイというか、ある種の生化学物質が一役買っていると考えるのは当然の帰結ですね。
生徒 リーダーにはどうやってなるんですか? マザーが命令するんですか? それとも人気投票?
先生 ブルードマザーはひどいニオイのゼリーを作り、それを時たま宿主に寄生する前の、ブルードリングの新生児に食べさせます。このゼリーを食べたブルードリングが、寄生後ハイブブルードに成長すると---成長というより変態でしょうか---、これが必ずハイブリーダーになります。
生徒 ハイブリーダーは一匹だけですか?
先生 いいえ、リーダーは一匹とは限りません。マザーは巣一つに対して必ず一体しかいませんが、リーダーは巣が大きくなればなるほど数が増えます。
生徒 そんな…船頭多くして山に登らないのかな。
先生 実はリーダーは中間管理職で、船頭は別にいます。それがハイブマインドです。
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ハイブマインド
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先生 ハイブマインドはマザーと同様、ほとんど動くことができないタイプの構成員です。
生徒 なんだ、じゃあ怖くないんだ。
先生 とんでもない。ハイブマインドがいるからこそ、ハイブは真に恐るべきモンスターなのです。
生徒 何故ですか?
先生 ハイブマインドには特殊能力があります。あとで詳しく述べますが、ハイブマインドは餌にしたモンスターの能力をすべて自分のものにすることができるのです。
生徒 は?
先生 たとえば、ファイアーボールの呪文を記憶していた魔術師が殺されて、ハイブマインドの餌になると、そのハイブマインドはファイアーボールが使えるようになります。
生徒 げー……
先生 さらに厄介なことに、ハイブマインドはそうした能力…他の一般的能力と区別するためにここでは「技能」と呼んでおきましょうか、ハイブマインドは自分が得た技能を、巣のすべての構成員に与えることができます。
生徒 はああ!?
先生 まぁ、この件はあとで詳しく話しましょう。
生徒 あとでって…(汗)
先生 特殊能力はおくとして、ハイブマインドはその名の通り、巣の司令塔です。彼は巣の活動を制御することに完全に専念します。
生徒 じゃあ、戦ったりはしない、と…
先生 戦うのは働きバチの仕事ですからね。
生徒 はぁ…。
先生 ハイブマインドも巣一つに対して一匹では必ずしもありません。ただ、リーダーよりは圧倒的に数が少ないでしょう。というのは、ハイブマインドはハイブリーダーが変態して生まれるものだからです。
生徒 はぁ?
先生 はっきりとはわかりませんが、おそらくリーダーとなるべきブルードリングが与えられたゼリーをですね、その同一のブルードリングか、変態後のハイブリーダーがさらに続けて食べると、ハイブリーダーは2番目の休眠期を経てハイブマインドになる、という説が有力です。
生徒 2番目?
先生 1番目の休眠期は、最初にハイブブルードに変態する前のやつですね。
生徒 ああ、なるほど。そういえばさっきから話に出てくる「ゼリー」って、なんか「ローヤルゼリー」みたいですね。
先生 そうですね。蜂の「ローヤルゼリー」は、食べた働きバチが女王バチになっちゃうので、ちょっと違いますけどね。
生徒 あれ? そうするとブルードマザーはどうやって増えるんですか? それとも増えないんですか?
先生 ブルードマザーは、ブルードマザーの卵をブルードマザーが産むことによって増えます。
生徒 舌、噛みませんでした?
先生 この次世代ブルードマザーの「卵」をいつ産ませるかを決定したり、別の新しい巣を作るためにその卵とお守りのハイブブルードたちをいつ・どこへ送り出すかを決定するのもハイブマインドの仕事です。
生徒 別の新しい巣ぅ〜!?
先生 一つの巣の構成員が100体を超えると、ハイブマインドは今言った「巣別れ」を計画し実行します。
生徒 あの〜、巣別れって、どのくらいの規模なんですか。
先生 ブルードマザー1体に、ハイブリーダー1〜2体、ハイブブルード10〜20体くらいが基本ではないかと言われています。規模の大きい巣別れになると、ハイブマインドもキャラバンに加わります。が、これは元の巣によほど余裕のあるときでしょうね。
生徒 新しいブルードマザーって、そのときは卵なんですか? それとも……?
先生 卵からは出てきているでしょうね。少なくとも、新しい巣に棲みついた時点では、完全に成体のブルードマザーとして振る舞えるようになっているはずです。かくてハイブはどんどん増えていくのです。
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